はなばたけ
まだ寒いというのに花畑がある。
少女はそれを花畑の外、道から見ていた。
こんな真冬の時期に花を鮮やかに咲かせる花もあるのか、と少女はその花畑をの道を歩きながら見る。
背の低い真っ赤な花だ。
葉の緑色との赤い花とのコントラストがとても鮮やかだ。
雲一つない空の元、澄んだ空気にもよく合っている。
少女は母方の実家にいる。
今日、帰る予定だ。
何なら、少女の親たちが今、ちょうど玄関で祖父達と挨拶をしている時だ。
そのちょっとした時間に、少女は散歩に出かけた。
玄関を出て、庭の門を出て、数歩歩いただけだ。
まさか祖父の家の前にこんなきれいな花畑が広がっているとは、少女は思っても見なかった。
なぜ来るとき気が付かなかったんだろう、なぜ、祖父達はそのことを教えてくれなかったんだろう、と、少女は不思議に思うほどだ。
しかも、この花畑は途方もないほど広い。
少女の視線が続く限り、ずっと、地平線まで鮮やかな赤と緑の花畑が続いている。
しばらく花畑に見とれていたが、そろそろ帰った方が良い、そう思った少女は振り返る。
そこには、地平線まで続く花畑があるだけだ。
少女は慌てて周りをぐるりと見て回る。
視界にあるのは花畑。
それと少女が立っている一本道だけだ。
少女は呆然とする。
まだそれほど祖父の家から出て、時間がたってないはずだ。
一分も歩いていない。
なのに、ぐるりと見渡しても祖父の家などない。
それどころか、少女の視界内に建物一つ見えない。
少女は泣きながら、元来た、であろう、道を走り出す。
だが、行けども行けども、舗装もされていない一本道と花畑しかない。
それでも少女は止まらずに歩き続けた。
泣きながら歩き続けた。
少女の体感では五分か十分程度の時間だろうか。
歩き続けていると、急に見知った風景になり、何も育てていない土だけの畑が見え、そして、祖父の家が見えて来た。
少女は泣きながら祖父の家へと走り込む。
祖父の家には、少女の親と祖父、それと近所の人達が集まっていた。
少女が散歩に出た時は午前中だったのが、時刻は既に夕方となっていた。
少女は花畑のことを話す。
そうすると祖父は驚く。
それはこの土地の神様の仕業かもしれない、とそう言った。
稀に少女のように、神隠し、に合うことがこの辺りではあるそうだ。
神隠しに合って帰ってきたものはみな、花畑にいたと、そう言っている。
無論、帰ってこない者もいる。
少女は運が良かった、のかもしれない。
こうして帰ってこれたのだから。
はなばたけ【完】




