はなのおく
少年は鼻の奥に何かを感じていた。
出来物かなにか、もしかしたら、ご飯粒か。
そんなものが鼻の奥に引っかかっていると。
鼻を強くかんでも、出てこない。
鼻の奥に、なにかが、引っかかっているのは確かなのだが。
少年は鼻の奥の違和感に苦労しつつ、綿棒を鼻に突っ込んだりもしたが変化はない。
結局、少年は母親に連れられ病院へ行くこととなった。
耳鼻科の先生に診てもらう。
少年の鼻の穴の中を耳鼻科の先生が覗き込み、うわっ、と声を上げる。
少年は気になるのだが、鼻に吸引機を突っ込まれたままで身動きができない。
だが、耳鼻科の先生は吸引機を突っ込みつつ、それを助手の看護師に手渡し、今度は細く長いピンセットを少年の鼻に突っ込む。
そして、痛いかもしれないけど我慢して、と声をかける。
確かに痛い。
結構な痛みが少年の鼻孔の奥からうずいてくる。
少年は身をこわばらせて耐えるしかない。
少年の鼻の奥から、なにか熱く大きな、ぬるぬるとした物がじょじょに取り出されていく。
少年は痛みのあまり、目を硬く瞑りそれを見ることはなかった。
けど、それを見た少年の母親は、ひぃ、と小さな悲鳴を上げた。
しばらくして、耳鼻科の先生は、額に汗をかきながら、もう大丈夫だよ、と、少年に声をかける。
確かに少年の鼻は随分とすっきりしている。
少年は、何が詰まってたんですか? と耳鼻科の先生に聞く。
だが、耳鼻科の先生は、知らない方が良いよ、としか、答えてくれなかった。
少年の母親も、それに賛成のようだった。
ただ、少年の感じた鼻から出て行った物は、かなりの大きさだったように思えた。
少年が大人になった今でも、あの時自分の鼻に何が詰まっていたのか知らないし、母親に聞いてもとぼけるばかりだ。
だが、とぼけている母親の顔はいつも恐怖でひきつっているのだ。
ただそれだけの話だ。
はなのおく【完】




