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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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おじさんくも

 少女が夜トイレに行くとよく大きな黒い蜘蛛を見かける。

 背中に人の、おじさんのような顔の模様を付けた少し不気味な蜘蛛だ。


 初めてその蜘蛛を見つけたときは、少女も両親を呼んだりしたが、両親を呼びに行っている間にその蜘蛛はどっかへ消えてしまう。

 そんなことが数度もあった。


 そのうち少女もその蜘蛛に慣れてしまう。

 蜘蛛にしては大きいせいか、とにかく動きが緩慢なのもある。

 そのうち少女もその蜘蛛のことをあまり怖がらなくなった。


 少女はその蜘蛛を、背中の模様から、おじさん蜘蛛と勝手に呼んでいた。


 その日も少女が夜、寝る前に用を足すためにトイレに行き、便座に腰かけていた時だ。

 その蜘蛛がトイレの出入り口であるドアに張り付いていた。


 少女は流石に嫌な気持ちになる。

 見慣れたとはいえ、大きな蜘蛛なのだ。

 しかも、背中にはおじさんの顔のような模様迄ついている。

 それで嫌な気持ちにならない訳がない。


 ただその日はそれだけではなかった。


「ねえ、ねえ」


 と、低いくぐもった声で蜘蛛が、蜘蛛の背中の顔が少女に話しかけて来たのだ。

 少女も流石に驚く。

 けれど、今は逃げ場もないし、動けない。


 少女は、気のせいではないかとじっとその蜘蛛を見る。


「出るときに窓を開けておいて」


 と、その蜘蛛の背についているおじさんの顔は言葉を伝えて来た。

 少女は少しの間固まったが、きっと蜘蛛が出ていくつもりなのだろう、とそう思い、返事はしなかったが、ゆっくりと頷いて見せた。

 出ていくのであれば、少女も止める気はしない。


 少女が用を足し終わった後、蜘蛛に言われた通りに、トイレの窓を開けた。

 そうすると蜘蛛はピョンピョンと器用に跳ねて窓から外へ出ていった。


 それを見た後、少女は急いでトイレの窓を閉めた。

 これでもうあの蜘蛛にも出会うことはない。少女はそう思っていた。


 それから数日後の夜。

 少女が寝る前にトイレへ行き、便座に腰かける。


 そうするとコンコンと窓を叩く音がする。

 嫌な予感をしつつも少女が用を足し終え、振り返るとそこにはあの蜘蛛がいた。

 窓に張り付いているので、あの特徴的なおじさんの顔のような模様は見えない。

 その代わり蜘蛛の腹が見えて気持ち悪い。


「なんで窓閉めたの」


 と、蜘蛛はくぐもった声で少女に聞いて来た。

 少女は答えない。


「開けておいてって言ったのに」


 蜘蛛はそう続ける。

 ただその声は怒っているように聞こえる。


 少女は怖くなり泣きそうになる。

 そうすると暗闇の中から黒い手が伸びて蜘蛛をサッと捕まえて行ってしまった。


 それ以来少女がその蜘蛛を見ることはなくなった。




おじさんくも【完】

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