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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ゆぶね

 男の家では冬くらいしか湯船に湯を張らない。

 冬以外はシャワーだけで過ごす。

 そんな家だ。


 秋があっという間に過ぎて、冬がやって来たくらいの季節の話だ。


 男が湯船を掃除するために、湯船の蓋を開ける。

 夏の間に、念のためと、水を貯めておいた湯船に埃や小さな羽虫が少しだけ沈んでいる。


 それでも、水は綺麗に見えた。

 濁ってはいない。

 だが、ほのかな生臭さが臭ってくる。


 流石に長い間、水を貯めすぎたか、と男は反省し、湯船の水を抜こうとする。


 その時に男は気づいた。

 妙に髪の毛が漂っている。

 長く黒い髪の毛だ。


 男は不思議に思う。

 男の家族にはそんな黒髪の長髪はいないからだ。


 一番、髪の毛の長い男の妻でさえ肩までない程度だし、髪の毛の色は栗色をしている。

 今、湯船に漂っているよな真っ黒な色ではない。

 しかも、その髪の毛はとても長い。

 計ったわけではないが、ゆうに一メートルは超えているような、そんな長さの黒髪なのだ。


 臭いの原因はこれか、と思いつつも、なぜこんなものが漂っているのか、それがわからない。


 しかも、かなりの量の黒髪が漂っているのだが、それはまとまることなく、水の中をバラバラに漂っているのだ。

 だから、よく見ないと黒髪が湯船に漂っているのに気付きにくい。

 男が一見して、水が綺麗に見えたのはそのせいだ。


 男はギョッとしつつも、湯船の栓を抜こうとする。

 そうすると、手に何かが絡まる。

 湯船を漂っていた黒髪だ。

 まるで黒髪が意志でもあるかのように、男の手にまとわりつき、湯船の栓を開けるのを阻止しようとしているのだ。


 男は慌てて湯船から手を引き上げる。

 そこには締め付けるように男の手に絡まる黒髪があった。


 男はその黒髪をどうにかぬぐい取る。

 そうするとその黒髪は、まるで生きているかのようにのたうち回るのだ。

 男は情けなく悲鳴を上げ、一旦風呂場から逃げ出す。


 そして、多めのトイレットペーパーを手に持ち浴室に帰ってきて、その黒髪のような塊を、浴室の床でのたうち回っているそれを掴み、トイレへ投げ捨て流した。


 男は次に考える。

 この髪の毛のようなものは、なにか自分の知らない虫か何かなのではと。

 男は工具箱から金槌を持ってきて、その柄の部分を浴槽につけてみる。


 そうすると湯船を漂っていた黒い髪のようなものは、金槌の柄に絡まり始める。

 男は更に金槌の柄を使って湯船の中をかき回す。


 そうするとほとんどの髪の毛のようなものが、金槌の柄に絡みついてくる。

 男はそれを引き上げ、ひとまとまりになった髪の毛のような何かを、トイレットペーパーで拭い落とし、それをベランダまで持って行って火をつけた。

 それは濡れていたにもかかわらずよく燃えた。


 それは確かに、髪の毛の燃える臭いがしたという。


 その後、男の家では湯船を使わない時でも、湯船に水を貯めておくことはなくなった。

 ただ、それだけの話だ。




ゆぶね【完】

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