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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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いぬ

 少年は恐れて速足で下校していた。

 少年の後ろを犬が付いてくるからだ。


 ハァハァハァという呼吸音、テッテッテッという獣の足音、首輪の鎖をジャラジャラと引きづる音、黒く大きなけむむじゃらの大きな姿。


 少年にとってはそのすべてが恐怖の対象だった。

 自分とおなじくらいか、もしくはそれ以上の黒く大きな犬だ。


 首輪が付いているので野良犬ではないのだろう。

 また、その犬が唸るような威嚇音を出すこともない。

 それでも、少年にとっては恐怖の対象でしかなかった。


 夕闇に佇むその黒い姿は、ある種の胡散臭さと不気味さを盛り合わせたからだ。


 少年が速足で自分の家へと向かう。

 その後を大きな犬が付いてくる。

 少年が振り返ると、犬は歩みを止めてその場に座り込む。

 ある一定以上の距離に犬は近寄りはしない。

 少年の方からも近寄りはしないので、犬との距離が縮まることはない。


 まだ幼い少年からすると、その犬は大きすぎるのだ。

 またペットなどを飼ったこともない少年はどう接すればよいかもわからない。


 少年の帰り道が四辻に差し掛かった時だ。

 四辻の、少年から見て右の方から、黒い人影がヌッと現れる。

 ちょうど影になり黒い、大きな人影に少年には見えた。


 背の高い、中年の男性。

 ただ本当に影になっていて、少年からはそのシルエットしか見えない。

 けれど、少年にはそう見えたのだ。


 そのシルエットのような人影に向かって、少年を着けて来ていた犬が急に走り出す。

 黒く大きな犬は黒い人影に向かって飛び掛かった。


 それを黒いシルエットの人影は受け止め、抱きかかえ、黒く大きな犬の頭を撫でる。

 ひとしきり犬を撫でた人影は、少年に気づき、頭を下げ、そして、黒い犬と共に少年の前を横切って行った。


 黒い大きな犬も嬉しそうにその人影に付いて行った。

 少年は茫然と見ていたが、一瞬だけ夕日が当たり、見えたその黒い人影の姿は、人間の物ではなかった。


 少年は四辻の前で少しの間呆然として立ち止まっていたが、やがて何事もなかったように帰路についたのだ。

 ただ、それだけの話だ。





いぬ【完】

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