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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ふていけい

 夜、いや、まだぎりぎり夕方、日が暮れる少し前、そんな時間の少女の帰り道。

 何者かに少女はつけられていた。


 誰に?

 それはわからない。


 言ってしまえば、黒い不定形の何かだ。

 それは黒い塊で、それ自身の中で何か蠢ているような、そんな、なにかとしか言えない物だ。


 少女もそれに気づいていたが、気づかない振りをしていた。

 恐怖に身を震わせながらも、気づいてはいけないのだと、そう確信していた。


 だから、少女は足早ではあるが、帰り道を、その震える足で急いでいた。


 だが、その不定形の何かは少女に付かず離れずついてくる。

 ついてくるだけで何もしてこないのだが、少女はそれから離れることはできない。

 少女もかなり早い早歩きで帰り道を急ぐのだが、その不定形のなにかを引き離すことはできない。

 どうみても、それは早く動けるような形状はしていないのに。

 まるで少女の影の様に付かず離れずでついてくるのだ。


 少女は泣きそうになるのを必死に堪えながら、帰り道を進む。

 だが、いつもはもう家についているはずなのに、少女が家にたどり着くことはない。


 薄暗い夕闇の帰り道がどこまでも続いている。

 日が沈むこともなく、昼と夜の間の時間が続いている。

 少女は既に、自分を付けてきている何かに囚われているのだと、そこでやっと理解する。


 恐怖に駆られながら家に帰ろうとするだけでは、この状況を打開できない。

 少女にもそれは理解できた。

 だが、少しだけ後ろを見て確認すると、その不定形で蠢く何かがいるのだ。

 話が通じるわけはないし、少女がその存在に気付いていると、それに知られてはいけない。

 そうとも少女には思えるのだ。


 少女は迷った挙句、足を止めて、もう少し、その不定形で蠢く何かを観察する。

 そうすると目が合った。


 目が合ってしまったのだ。


 少女は確かに眼が合ったのだ。

 その不定形で蠢くなにか、いや、その何かの中で蠢ている顔の一つと。

 そして、その顔は少女に向かい確かに、たすけて、とそう声を発した。


 その声を聞いた瞬間、少女は駆け出しだ。

 

 やはり、あれに気づいていると気づかれはいけなかったのだ。

 少女が全速力で駆けだしたのと同時に、そのなにかも身を震わせながら、少女に襲いかかろうとする。


 少女は助け声も上げずに走り続ける。

 息の続く限り走り続けた。


 そうして、気が付くと少女は、いつの間にかに街の中を全速力で走っていた。

 周りには驚いたように少女を見つめる人たちがいるほどだ。


 少女はなんとなく助かった、そう感じたそうだ。


 そして、少女が安心し振り返った時、それは少女の目の前にいたのだ。

 どこまでも深い闇を蠢かせて、少女を飲みこうとそれは迫っていたのだ。

 少女が悲鳴を上げる間もなく闇に飲み込まれる。


 その光景を見たものは誰もいない。


 先ほどまで、少女がいたと思っていたはずの人々も誰もいない。


 そこには闇に蠢く不定形の何かがいるだけだ。






ふていけい【完】

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