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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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いけのこおり

 今日も庭の小さな池に氷が張っている。

 池にいるのは金魚だけだかが、それでも金魚のために氷を割っておかなければならない。


 男は仕事に行く前に、箒の柄で池の氷をつつき、割っていくのが日課になりつつある。

 その日も男は池の氷をつつく。


 そんな厚い氷ではないので、すぐに割れる。


 これで金魚たちも大丈夫だろう、男はそう考えて池を見る。

 だが、だいぶ池は汚れている。

 そろそろ掃除してやらないといけない時期だが、今は寒い。

 池に氷が張るほど冷たいのだ。

 だが、億劫になりながらもやらなければならない。

 金魚はもともと子供たちが夏祭りの金魚すくいで捕まえて来たものだ。

 それをここの小さな池に放したのだ。


 金魚は数も減らず、のびのびと池で泳いでいる。

 だが、子供たちが金魚の世話をしていたのは、夏の終わりごろまでだ。

 今は完全に男の仕事になってしまっている。


 池の氷を割ったところで、男は金魚の餌を池に投げ込んで、週末に無理やりにでも子供たちと池の掃除をしなければ、と心に誓う。




 次の日はやけに冷え込んでいた。

 男が池の氷を箒の柄でつつくが、氷は厚く簡単には割れなかった。

 仕事に行く前の時間であまり時間がないのだが、仕方なく男は手でその氷を取り除く。


 冷たい。

 指がもがれると思うほど池の水も氷も冷たい。


 それに今日は氷が厚いせいか、水草のような物を巻き込んで凍ってしまっている。

 男は背広に池の水がつかないように注意しつつ、氷を取り除こうとする。


 だが、そこで男は気づく。

 氷に巻き込まれていたのは水草ではない。


 長く、黒い、髪の毛だ。


 それに気づいてしまった男は、ヒィ、と声をあげて、氷を投げ捨てる。

 そのまま、家の中へ逃げ帰り、妻に池のことを伝える。

 後のことを妻に任せて、もう時間がないからと、男は仕事へ向かう。


 男の妻が、家の用事を済ませた後、庭の池の様子を見ると、そこには池の近くに投げ出された水草だけが横たわっていた。

 妻は、男が見間違えたのだと、そう思って笑いながら池を見ると、池の中から、水の中から人が、妻を見ていたのだ。


 女は大きな悲鳴を上げる。

 その悲鳴を聞いて、隣人が駆けつけて来るが、その時はもう池の中の人は見つからなかった。


 妻の話を聞いて、男は掃除ではなく池を埋めることにした。

 金魚たちには家の中でも飼える水槽に移ってもらうことにした。


 ただそれだけの話だ。






いけのこおり【完】

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