まどのすきま
少女の部屋の雨戸。
立て付けが悪くちゃんと閉まらない。
ちゃんと鍵はかかるので特に問題はないのだが、ほんの五ミリ程度、隙間がどうしても空いてしまうのだ。
無論カーテンもあるので、そこから少女の部屋が覗かれることもない。
だが、あるのだ。
隙間が。五ミリ程度の、そんな隙間が。
深夜、少女がそろそろ寝ようか、という時間帯。
不意に少女は窓が気になり始めた。
特に物音がしたわけではない、何かの気配を感じたわけではない、視線を感じたわけでもない。
だが、不意に窓が気になったのだ。
少女は無意識にカーテンを開ける。
そうするとカーテンとガラスの窓の間にたまっていた冷たい空気が放たれる。
少女はその冷たい空気を感じつつ、雨戸の隙間に目をやる。
そこからは闇が見えるだけだ。
他に何も見えるわけはない。
と、少女が思っていると、雨戸と雨戸の間に白い物が見えた。
少女は身構え、嫌な顔をする。
それは何かの虫の幼虫だ。イモムシだ。
幼虫が寒さをしのぐかのように、外から雨戸の中に入ろうともがいていたのだ。
もう十一月も下旬だ。
幼虫がそんな時期にいるなんて珍しい、と思いつつも少女はいい顔をしない。
ただ、叫んだり慌てたりもしない。
まだ少女と幼虫の間には、ガラスの窓があるからだ。
だから、少女はその幼虫が雨戸のうちに入り込もうとするのを、どこか他人事のように見ていた。
外も寒いのだから、少しでも寒さをしのげる場所に行きたいのだろう、それくらいにしか思ってなかった。
だが、次の瞬間だ。
雨戸の閉まりきれない隙間から、別の幼虫が顔を出す。
同じく白いイモムシだ。
大きさは二センチもないくらいの小さな幼虫だ。
流石にガラスの窓があるとはいえ、二匹目となると少女はあまりいい顔はできない。
寝る前に嫌なものを見つけてしまった、と、そう考える。
だが、虫は群れるものだ。
少女が二匹目の幼虫に顔を顰めていると、三匹目、四匹目と、それととどまらず次々と雨戸の隙間から入り込もうとする幼虫が増えだした。
流石に少女は声を上げる。
そして、別の部屋にいる父親の元へと走る。
少女が父親を呼び、自分の部屋に戻ってくると、もうその幼虫はいなかった。
まるではじめっから、そんな物がいなかったかのように、幼虫はいなくなっていた。
その夜、少女は夢を見る。
自分の部屋に幼虫が入り込み、部屋の至る所を這いまわる幼虫の夢を。
少女が悪夢から起き、窓を開けようとしたときだ。
処女の部屋のガラスの窓にいくつかの、三つか四つの繭のような物がくっついている。
少女はそれがすぐに昨日の幼虫の繭だと理解して、悲鳴を上げる。
その繭は父親によって撤去され、雨戸のたてつけも修理された。
それでも少女はたまにあの幼虫の悪夢を見る。
なぜなら、少女の部屋に入り込もうとした幼虫はもっとたくさんいたからだ。
まどのすきま【完】




