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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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つかれてるね

 男が仕事帰りに歩いていると、ふいに声を掛けられた。

 それは中年女性の優しい声だった。


 つかれているね、と、そんな心配される様な声でそんな言葉を掛けられた。


 男は声のした方を見る。

 竹藪だ。

 その中に家がある。

 そして、窓にしては少し低い位置に煌々と光る窓がある。

 その窓から声を掛けられたのだ。


 男はびっくりして指を自分の顔に刺す。

 そうすると、更に声が聞こえて来る。

 そうだよ、あなただよ、随分とつかれているね、と。


 男は考える。

 確かに疲れている。

 最近特に疲れている。

 仕事が忙しく休む暇もない。

 今日も終電ぎりぎりだった。

 明日も朝早くから会社に行かねばならない。

 これで疲れない訳がない。


 確かに疲れてますね、と、男は返事を返す。


 そうすると、なんだわかっているのかい、ならいいけども、と、声は答える。

 男は、心配させてしまい申し訳ありません、と、頭を下げてその竹藪を後にした。




 次の日だ。

 その日も仕事帰り、深夜遅くに竹藪の前を通る。

 もう午前になっていると言うのに、その竹藪から見える窓には、煌々と明かりがついている。

 男がその竹藪の前を通ると、昨日の様に声を掛けられる。


 大分つかれているね、と。


 男はどこの誰かは知らないが、また心配してくれいるのだ、と少しうれしくなる。

 はい、仕事が忙しくて大分疲れています、と答える。

 そすると、そうかい、きをつけなさい、とその優しい声の主は返事を返してくれた。


 その次の日もだ。

 夜遅くにもかかわらず竹藪から見える窓には煌々と明かりがついている。

 そして、男が通ると声を掛けてくれる。

 しかし、今日かけられた言葉は男を戸惑わせる。


 その声は、つかれているね、はらおうかい? と、そう声を掛けてきたのだ。


 疲れている、は男には理解できる。

 だが、はらおう、とは何か、男には理解できない。


 そこで男は、はらう、ですか? と聞き返す。


 そうすると声の主は、はらおうね、はらおうね、と、有無を言わさずそう言った。

 そすると窓の明かりが強くなる。

 男の目が眩むほど強くなる。


 そうすると不思議なことに男の疲れがサッと引いていく。

 次の瞬間には、明かりは消えていた。


 だが、男の身は妙に軽い。

 男は訳が分からなかったが、ありがとうございます、とお礼を言い、頭を下げ、竹藪を後にした。


 次の日、いや、正確にはその日の朝だ。

 男が仕事の前に竹藪の前を通る。

 普段は余りにもつかれていて、そこが竹藪だと気づきもしなかった場所だ。

 それで男もやっと気づく。

 男が窓だと思っていた場所にあるのは、小さな社だ。

 その中には地蔵様が祀られていた。


 男はそれを見て、はっとなる。

 自分は、つかれていたのだと。


 その後、男はその地蔵に感謝し、毎日お供え物をする様になった。





つかれてるね【完】

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