あきべや
男は引っ越したばかりの親戚の部屋へと遊びに来ていた。
もう古いマンションだからか、かなり部屋代が安いマンションだと聞いていたが、かなり綺麗な部屋だ。
部屋の広さも独り暮らしで住むには大きいくらいだ。
駅からも近く、都心にも近い。
これで家賃が五万をきるというのだから、男には信じられなかった。
なにか訳アリ物件にしか思えなかった。
男は家賃が安い理由をすぐに知ることになる。
男がトイレを借りようとした時だ。
親戚がトイレの隣の部屋には入るな、とそう言って来たのだ。
男は何で? と聞き返すと、親せきは口ごもる。
すこしの間があって、親戚は口を開く。
あの部屋は、空き部屋なんだ、あの部屋に入ってはいけないし、開けるのもあまり良くない、この家賃が安い理由だよ、と親戚は男に告げた。
男はやっぱりなんかあったかと、そう思いつつ、先にトレイを借りる。
そして、その隣の部屋を見る。
男は何か異様な雰囲気でもあるのかと思っていたが、外から見る限り普通の部屋だ。
ただ、おかしなことに部屋の外側に手で開け閉めできるような、鍵の取っ手がついている。
そこくらいしかおかしな場所はない。
男は親戚の元に戻り、その部屋のことを聞く。
親戚も部屋を借りる際、一度中を見ただけだが、何もない部屋だそうだ。
ただ、その部屋以外はリホームされていて綺麗だが、その部屋だけは少し昔の内装をしている。
そんなだけの部屋らしい。
男は親戚に無理を言って、入らないから中を見てみたい、と頼んだ。
親戚はあからさまに嫌そうな顔をするが、親戚も本気で信じてないのか承諾してくれる。
そして、親戚はその部屋を開ける。
そこは確かに古臭い部屋だ。
壁紙からも年期を感じる。
家具は一切ない。
窓付きの部屋。
ただの空き部屋だ。
だが、その部屋のドアを開けた途端、妙な冷気が流れ出て来ていた。
親戚もその冷気を感じたのかすぐにドアを閉めた。
部屋の外から鍵をかける。
そして、親戚は男に告げる。
お前も今夜、夢を見るかも、と。
男は親戚に言われた通りその夜に夢を見る。
もう親戚の部屋から帰って来て自分の家だが、あの空き部屋の夢を見る。
あの空き部屋だ。
何もない空き部屋に男は独り座り込んでいる。
そして、電灯があるべき場所に何かが吊り下げられている。
人だ。
女だ。
その吊り下げられた女は、苦しそうな目で男をじっと見つめている。
男はこれが夢だと分かっていても何もできない。
ただただひたすら、吊り下げられた、いや、首吊りをしている女から見つめられたのだ。
次の朝、男は親戚に電話する。
夢を見たと、そして事故物件じゃないか、と告げるが、親戚は答えた。
この部屋が事故物件だったことはないそうだよ、と。
今は調べれば、それもわかるんだよ、と親戚はそう言った。
じゃあ、あの部屋はなんなのだ、と男は疑問を抱くのだが、親戚にもそれはわからない。
あの部屋は空き部屋であり、一部屋使えないから家賃が安いのだ。
ただそれだけのことだ。
実際、その部屋で人が死んだという記録はない。
あきべや【完】




