ねむけ
男は強い眠気に襲われていた。
歩きながらうとうとと、ふらふらとするくらいの眠気に囚われていた。
仕事が忙しく疲れていたのもあるが、ここ最近妙に寝付けない。
ベッドに横になるまでは本当に眠いのに、ベッドに横になったとたん、眠気が去っていく。
そして、寝れない。
そのせいで、男は起きている間、ずっと眠気に襲われているのだ。
男がふらふらと帰り道を歩いていると、声を掛けられる。
占い師だ。
中年の女性の占い師だ。
帰り道、商店街のアーケードの通りに、占い師がそれぽい恰好それぽい机と椅子に座っている。
見るからに占い師だ、という格好をしている。
その占い師は、あなた何かに憑かれてますよ、と、道行く男に声にかけたのだ。
男は占い師の方を向き、寝れない呪いですか? と、何も考えずに聞き返す。
占い師は、そこまではわからない、ただ家に帰ったら枕の中を見てください、お代はいいです、と返した。
男は無言でうなずき、さっさと家に帰る。
そうして、すぐに枕の中を見る。
枕カバーをはがし、枕の中を見る。
枕にはチャックがあり、それを開けると、中から中袋と一枚のお札が出て来た。
男はお札に注目する。
日本語ではある。
だが、なにが書いてあるかよく読めない。
かろうじて読めたのは、退散、という文字だけだ。
お札には〇〇退散と書かれていたのだ。
〇〇の字は複雑なうえにかなり崩されて書かれているので男には読めない。
ただ恐らくは二番目の文字は「魔」だと、〇魔ではないのかと、男には思えた。
これが原因か、と男は考えるが、〇魔退散、なら悪い物ではないのではないか。
そんなことを考えてしまう。
だが、だれがこんなお札を枕に中に入れたのかも分からない。
男はとりあえずそのお札を大切にしまう。
明日、あの占い師にでも見せようと。
そう考えてだ。
その夜は確かにぐっすりと寝れた。
次の日、男はその札を持って昨日、道端で声をかけてくれた占い師のところへ行く。
確か、商店街の通りだったはずだと。
その占い師は同じ場所にいたので、男は声をかける。
そして、そのお札を見せる。
占い師はその札を見て、頷き、この札を枕に戻しなさい、と助言した。
男がなぜ? と聞き返すと、これは睡魔退散の札で、あなたは睡魔に憑かれている。
とそう言った。
そこで男は、この札がなかったらどうなる? と占い師に聞く。
そうすると少しの間をおいて占い師は、起きれなくなるかもしれない、下手をしたらずっと目覚めれなくなるかもしれない、と、険しい表情でそういった。
そう言われた男は悩む。
また眠気に困らせられるのか、それとも起きれなくなるのか、どっちが良いのかと。
永遠に夢の世界で暮らし、寝ているのも悪くはない、そんなことも考えてしまう。
男の考えを見抜いた占い師は、止はしないがやめておきなさい、睡魔が見せる夢は悪夢ですよ、と助言した。
そう言われた男はその言葉に納得し、少し多めの金額を占い師に払い、家路についた。
そして、枕にあのお札を戻した。
男はそんなんわけで今日も眠い。
ねむけ【完】




