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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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うしろあるき

 少女は毎朝早く、部活の朝練に出るために、まだ薄暗い時間から学校に通っていた。

 そんな日々で、少女が不思議に思っていることがある。


 毎朝、会うのだ。

 同じ場所で、後ろ向き歩きで歩いている少年と。


 不思議に思いつつも小学生くらいの少年だ。

 そう言うことにでも、はまっているのだろうと、少女は思っていた。


 その日も、同じ時刻、同じ場所で少女は少年と出会う。

 いつも通りの後ろ歩きで向こうから歩いてきている。

 見えるのは後ろ頭とランドセル。


 ふと少女はその少年の顔を見たことがない事に気づく。


 一度、気になりだすと少女はこんな奇妙なことを毎日飽きずにやっている少年の顔が気になりだす。

 そうこうしていると、少年とすれ違う。


 今、振り向けば少年の顔を見ることが出来る。

 少女はそう思って立ち止まる。

 そして、少しだけ考える。

 振り返っていいものかどうか。


 まだ薄暗い世界の中、少女は道に立ち止まり、少しの時間だけ待つ。

 少年が歩いて距離が少しできるだけの時間を待つ。

 そうすれば、例え目が合ったとしても気まずくはない。

 そ考えてだ。

 そして、少しの時間は経ち、少女は振り返る。


 その瞬間、少女は驚く。

 すれ違って少し待っていたはずだ。

 なのに、その後ろ歩きの少年は少女のすぐ後ろになっていたのだ。


 それも、後ろ向きにだ。

 少年も振り返って後ろ向きだったのだ。


 少女は心臓が飛び出るほど驚く。


 だが、それだけではない。

 少年は後ろ姿のまま少女に声を掛ける。

 なんで振り返ったの? と。

 男とも女ともつかない、まだ幼い声で。

 少年は少女に何度もその言葉を投げかける。


 ねえ、なんで振り返ったの? ねえ、なんで振り返ったの? ねえ、なんで? と。


 少女は震え始め、ごめんなさい、と繰り返し、その場に崩れ落ちる。

 あまりにも怖かったからだ。

 その後ろ姿の少年が、とてつもなく不気味に思えて仕方なかったのだ。


 少女が謝り続けていると、少年は後ろ姿のまま後ずさって、いや、前に歩いて行った。


 少年が少女とかなりの距離を取った時、遠くに何とか見えるような距離になった時、少年は立ち止まる。

 そして、少年はゆっくりと振り返る。


 少女は咄嗟に顔を伏せた。

 少年の顔を見てはいけない、そんな気がしたからだ。


 少女が顔を伏せたまま、学校へ向かう方へと向き、泣きながら走り出す。

 少女はもう振り返らない。


 それからも少女は後ろ歩きの少年と朝にすれ違う。

 だが、少女はもうその少年の顔を見たいとは思わない。

 ただ素早く、間違っても少年の顔を見ないように、できるだけ俯いてすれ違うだけだ。





うしろあるき【完】

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