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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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しゃくとりむし

 季節は夏だ。

 男は家族と田舎に来ていた。

 田舎と言っても誰か待っているわけではない。


 数年前まで年老いた親が住んでいた家だ。

 今は誰も住んでいない。

 そんな家に男は家族で来ている。

 週末だけ過ごすのによい場所なのだ。

 一カ月に数度は家族で来て、この田舎の家で週末を過ごすのが定番となっていた。


 まあ、別荘のような物だ。


 ただ古い家なのでそろそろリフォームが必要なのかもしれない、そんなことを男は考えていた。


 そんな家で、男と家族がゆったりと過ごしていると日も暮れた夕方過ぎに、ポツポツポツ、と雨音のような男が聞こえだした。

 雨音か、と思っていたが、雨が降る様子は全くない。

 けれど、ポツポツポツという音はどんどん多くなっていく。


 家族でこの音は何だろう。

 そう思っていると、男の息子が屋根裏部屋から音がする。

 と、言い出した。


 耳を澄ましてみると、確かにその雨音のような音は屋根裏部屋から聞こえてくる。

 屋根裏部屋、正確には屋根裏収納でそれほど広い場所ではないが、確かにそういった物がこの家にはある。

 男は天井にある戸までの、息子が無駄に使いたがるので取り外していた、階段とも梯子ともいえるような急こう配の階段を取り付けなおす。

 

 それを登り、屋根裏収納の戸を開ける。


 そうすると、男の目に入り込んできたのは無数の手だ。

 手は親指と人差し指だけだ。

 その名の由来のように尺を取りながら尺取虫のように蠢いていたのだ。

 それも無数にだ。

 数えきれないほどの手、しかも親指と人差し指しかない手が、蠢ていていたのだ。

 それは明らかに人間の手であり、尺取り虫に一見は見えるが、虫ではない。

 それは手だった、人間の、確かに人差し指と親指だった。

 それが無数に尺を取るように蠢ていており、それが蠢くごとにポツ、と音を鳴らしているのだ。

 数えきれないほどそれがいるので、雨が振ってきているような音が鳴っていたのだ。


 男は悲鳴を上げ、慌てて屋根裏収納の戸を閉じ、急な階段から転げ落ちる。


 妻や息子は男を心配そうに見る。

 だが、男は慌てて、すぐに帰る、この家から出ていくぞ、と家族に告げる。

 妻が理由を聞くと、男はこの家は呪われていた、と叫んだ。

 そして、もう売るしかない、と男は言い喚きだした。

 妻は自分の実家でしょう? 良いの? と聞くが、男はもう二度と来たくない、と、車に飛び乗りながら言った。


 自宅へ帰る道、後部座席で息子が寝付いたころに、男は妻にだけ屋根裏収納で見たものを告げる。

 妻は半信半疑だったが、車の中に、人の手程の尺取虫を一匹見つけて、悲鳴を上げながらも男に賛成した。


 それが手にしろ、尺取虫だったにしろ、そんな物が大量に住んでいる家は妻からしてもごめんなことは確かだ。





しゃくとりむし【完】

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