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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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めがあう

 女は家の押し入れ、それも上の押し入れ、天袋の戸を開けようとしていた。

 そこに掛け軸が閉まってあるからだ。

 年老いた親に掛け軸を変えてほしい、そうお願いされて、脚立を用意し、押し入れの前に置き、天袋の戸を開けたときだ。


 目が合ったのだ。

 

 天袋の戸だ。下はすぐ押し入れだ。

 そもそも天袋に人の入れるようなスペースはない。


 なのに、その戸を開けたら目が合ったのだ。


 まだ三センチ程度、戸を開けただけなのだが、そこから外を覗くように目があり、その目を目が合ったのだ。

 女は天袋の戸に手をかけたまま固まる。

 完全に思考停止する。


 停止した頭の中で疑問だけが浮かび上がるが、思考が停止しているため答えはでない。

 その為、しばらく天袋の目を見つめ合うことなった。


 光の加減なのか目しか見えない。

 他の部分、顔は見えない。


 ただ闇の中に目だけが瞳と白目だけが、外からの光を反射でもする様に見えているのだ。


 間を置いて、女の思考が戻ってくる。

 次の瞬間、女は大きな悲鳴を上げる。

 悲鳴に驚いたのか、天袋の戸が勝手にピシャリと閉じられる。


 女の悲鳴に、女の親がやってくる。

 そして、女に事情を聴く。

 女は押し入れの天袋の中に目が合って目が合った、悲鳴を上げたら勝手に戸を閉じられた、と、親に伝える。


 年老いた親はそんなことあるわけがないと笑う。

 そして、女の父親は箒を持ってきて、その柄で天袋を開けた。

 そこには押し入れらしく物が入れられているだけだ。


 目などもちろんない。


 女の母親は鼠でもいたのかね、と、心配しているが、女はあの目はそんなに小さくなかったと反論する。

 そうこうしていると、年老いた父親が脚立に乗り、掛け軸を取ろうとする。

 女は年老いた親には脚立は危ないから、と、そう言って再び脚立の上に立つ。

 そして、天袋の中を見る。

 ただの押し入れだ。

 そこに目などあるわけがない。


 女はお目当ての掛け軸の入った長細い箱を取り出し、脚立の下に待機している父親に手渡した。

 父親はすぐに床の間にかかっている掛け軸と取り換え、今までかかっていた掛け軸を長細い箱にしまう。

 そして、それを女に手渡した。

 女はそれを天袋にしまいその戸を閉める。


 そして、床の間にかかっている掛け軸を見て驚く。

 それは男の絵が描かれた掛け軸なのだが、その男の目が、先ほど女が天袋で目が合った目にそっくりだったのだ。


 それを女が、あの掛け軸の目、あの目が天袋から覗いてた、と言うと、女の両親は笑う。

 そろそろ出番だから、待っていてくれたのかねぇ、と。


 女は頬を膨らまして怒った。

 ただそれだけの話だ。





めがあう【完】

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