ひらくと
男は便座に座っていた。
漫画雑誌を持ち込み、それを読み、便座に座り用をたしていた。
男は自分の家のトイレにいるのだ。
一人暮らしの家だ。
もうトイレの用自体は終わっているのだが、特にトイレで漫画を読みふけっていても問題はない。
だが、男も、もうそろそろケツを拭いてトイレを出るか、そう思っていたころだ。
トイレのドアが勝手にキィィィィと音を立てて開いた。
一人だったが鍵は掛けていたはずだ。
だが、ドアは開いた。
男は、えっ、と声を漏らして開いたドアを見る。
暗い廊下が、自分の部屋の廊下が見える。
男は冷や汗をかきつつも、ドアの立て付けが悪いのか、そう思うことにした。
そして、ドアを閉めようと腰を少し浮かしたときだ。
扉から覗き込むように白い女の子が男を見ていたのだ。
男は浮かした腰を再び便座につける。
そして、その白い女の子を見る。
白いと言っても服などが白いわけではない。
いや、服も白い。
というか、全体的に白いのだ。
顔も髪も服も肌も、何もかもが白い。
白色の強弱だけで、人の形を構成しているような、そんな少女だった。
それがトイレのドアを開け、それも鍵のかかったドアを開けたのだ。
男は何もできない。
当たり前だ。
ズボンとパンツを脱ぎ、足にかけているような状態だし、辛うじて用はたしおわったが、ケツもまだ拭いていない。
そんな状態で男に出来ることなど何もないのだ。
手に持った漫画雑誌で下半身をなんとなく隠すことくらいだ。
恐怖と恥ずかしさが交じり合う感情の中、男はただ白い少女に見られ続けた。
緊張からか、生理現象か、男が不意にに屁をこいた。
それもかなり大きな音でだ。
そうすると白い女の子は嫌そうな顔をしてトイレのドアを閉めた。
男は慌ててケツを拭き、ズボンとパンツをはき、トイレの外に出る。
もう白い女の子はどこにもいない。
あれはなんだったのか、男にはわからないし、理解も出来ない。
それ以来、男は家でトイレに入る際、トイレのドアを開け放ち用を足すようになった。
そうすれば、少なくとも開けられることはない。
ひらくと【完】




