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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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しはつ

 仕事場が遠いと通勤するのも大変だ。

 男は始発の電車になる。

 普段は人も疎らだ。


 利点があるとすれば、行きは難なく電車で座れることくらいか。


 始発と言っても、その駅でその日はじめに来る電車で、その駅から発進する電車の意味ではない。

 男が利用している駅は途中の地下鉄の駅だ。


 その日、始発の電車を待つ者は駅のホームで男一人だった。

 始発でも自分一人だけとは珍しい、男はそう思っていた。


 始発の電車が到着し、ドアが開く。

 車両には女が一人電車の椅子に、その真ん中に座っていた。

 男はその対面から、少し外れた位置に座る。


 白い洋服の女だ。

 大きな帽子をかぶっていて顔は見えない。

 だが、男はなんとなく美人だろうな、と、そんなことを思っていた。

 女はそんな雰囲気をしていたのだ。


 そんなことをぼぉーと考えつつ電車に揺られる。


 すると車内が急に明るくなる。

 電車が地下から地上に出たようだ。


 だが、窓から景色が見えない。

 窓が白い。

 濃霧でも発生しているのか、窓から景色を見ることもできない。


 男は今日、そんな予報があったか? と思い出そうとするが男の記憶にはない。

 あと十分もすれば、次の駅に着く。

 その駅はターミナル駅なのでこの時間でも一気に人が増える。

 混雑する前に寝てしまおう、男はそう考える。


 座っていても混雑した電車はストレスが溜まるものだ。


 そこで、男はふと視線に気づく。

 その視線の方、白い洋服の女の方を見る。

 だが、大きな帽子で顔は相変わらず隠れたままだ。

 なのになんで視線を感じたか男にはわからない。


 男はあんな帽子では混雑してきたら大変だろう、そんなことを思いはするが男に出来ることもない。

 男が目を閉じようとしたとき、電車が止まる。


 男が想像して時間よりも早く電車が止まった。

 もう次の駅か、と男がそう思い、乗り込んでくる人々に身構える。

 だが、電車の扉が開き入ってくるのは、煙のような白い霧だけだ。

 いや、あと冷たい、刺すように冷たい空気が電車の中に流れ込んでくる。


 男はその空気に体を震わせる。


 今日はこの駅でも人がいないのか、珍しいこともあるのだな、と男は考える。

 だが、次の瞬間だ。

 男が座っている隣に何かが座る気配がした。

 男は慌てて自分の隣を確認する。

 白い靄が座っている。

 男は驚きはするがあっけにとられ動けなかった。


 白い人影に靄が、男の横に座っている。

 そうしていると反対側にも白い靄が座る。

 開いている席に、男の前に、社内の至る所に、白い靄のような人影がいる。


 男は理解できない。

 そして、その靄からは冷たい空気が漂ってくる。

 男はこの事態に、これは夢だと思い込むことにした。

 そして、目を閉じた。

 とても冷たい空気が自分を取り巻いているが、それでも男は体を震わせながら目をつぶった。

 これは夢だと自分に言い聞かせた。




 その日、電車の中で座席に座り込んだまま死んでいる男が発見される。

 原因は男が正確にはわからないが、過労死ではないかと言われている。


 男が死ぬ前に見た白い洋服の女は、もしかしたら死神だったのかもしれない。

 それは今となってはもうわからないことだ。





しはつ【完】

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