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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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にんぎょ

 男は季節外れの海に来ていた。

 泳ぎに来たわけではない。

 なんとなく、海を見たかったからだ。


 だが、休日ということもあり砂浜には人がまだ多かった。

 海水浴のシーズンでもないのに、なんだかんだで人が多い。

 男は少し場所を移動して、岩場のあたりに来た。


 砂浜よりも磯臭い。

 男が見たかった海とも違う。

 だが人はいない。


 男が海を見て黄昏るのに、ちょうどよいと言えばちょうどよい。

 それに水平線の方を見ている限りは、砂浜だろうと岩場だろうとそう違いはない。


 しばらく男は磯臭さに我慢しつつ海を見ていた。

 遠くの、水平線の方をじっと眺めていた。

 なんだかんだで磯臭さ以外はとても良い。

 視界の端で弾ける白い波も風流と言えば風流だ。


 男がそんなことを考え浸っている。

 そして、ふと視線を海から、水平線から放し、磯の辺りに視線を戻した時だ。


 大きな魚がいた。

 いや、魚顔の女だ。

 いや、それも正確ではない。

 顔は完全に魚だ。上半身だけ人間の上半身で、下半身はまた魚だ。

 魚人、もしくは人魚だ。

 それが海のすぐ近くの岩場に腰掛けるように座っていたのだ。


 美しさのかけらもない。

 上半身の肌も死人のように青いし、手には水かきと鋭い爪が見えた。

 頭から髪の毛のように、いや、カツラのように海藻の塊をかぶっている。

 下半身は完全に魚だ。


 ただ体は人間ほど大きくはない。

 全長で一メートルくらいだろうか。

 それでも、魚だと思うとかなり大きい。


 男は目が点になる。


 一目見て人間ではない、そのことがわかる。

 男は危険を感じ岩場から離れようとする。


 そうすると、その人魚は威嚇するように、グルグルグルグルとうがいをするような声を出し始めた。

 ついでに人魚の目はまん丸い魚の目、その物だ。

 どこを見ているかも男には検討がつかない。


 男はゆっくりと後ずさりをする。

 人魚との距離ができるほどに、人魚はうがいをするような鳴き声を大きくしていく。


 警告音かなにかと思った男は走って逃げだした。

 自分の車に逃げ込み、エンジンを慌ててかける。


 エンジンは普通にかかる。

 なので、男はもう一度磯の方を見る。

 まだ人形は磯に、磯の岩場に腰掛けるように座っている。

 どこを見ているかわからない目は男を見ているかのように思えた。


 男は車を発進させその場を去る。

 その後、男は自分を落ち着かせるため、少し離れた食堂に入る。

 手を震わせ、青い顔をしていた男が食堂に入ると店の女将に心配される。

 男はどうせ信じられないと思いつつも人魚を見た、と、食堂の女将に話すと女将に驚かれる。


 そして、女将は少し顔を赤らめ、契水を渡せば宝物を貰えたのに残念でしたね、と言った。

 契水? と男が聞き返すと、女将は男にそっと耳打ちする。

 精液のことですよ、と。


 男は途端に顔を赤らめる。

 そして、理解する。

 あのグルグルグルという鳴き声は威嚇されていたわけではなく、求愛されていたのだと。

 そう思うと悪い気はしない、いや、何となく気味は悪い。

 その食堂は海鮮料理、特に魚料理がが名物だったのだが、男は今日だけは魚料理だけは遠慮したかった。


 あと、若干ではあるが魚の目が苦手になった。




にんぎょ【完】

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