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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ほうもんしゃ

 いつの頃からか、午前三時頃に部屋を訪問してくる者がいる。

 その部屋を借りている女は不安で仕方がなった。


 大体、午前三時頃、女の部屋のチャイムが一度だけ鳴らされる。

 無論そんな時間の訪問者だ。

 女がそれに対応するわけはない。


 それでも毎日、それは訪ねて来る。


 でも警察に連絡を女はしない。

 女は知っているからだ。それが、その訪問者が人間ではないと。


 気づいたのは確かにチャイムが鳴らされたからだ。

 女は真夜中に起こされ不機嫌と不安の感情を持て余しつつも、防犯のためにドアの覗き穴を覗く。


 そうするとそれはドアの前に立っていた。


 中年の恰幅の良い女がはっきりと見えた。

 ただそれが本当に女かどうかわからない。

 それは仮面をかぶっていたからだ。

 白い仮面。笑顔の、張り付いた笑顔の仮面だ。

 さらに麦わら帽子のような帽子をかぶり、厚手の洋服を着ている。

 ただ全体的にどこか妙な違和感がある。


 女は最初それを見たとき、恐れ戦いた。

 当たり前だ。真夜中に仮面をつけて訪ねて来る存在など恐怖以外のなにものでもない。

 無論、女はそれに対応せずに、そっと玄関のドアから離れる。

 台所の曇りガラスの窓からも、その人影を確認できる。


 かなりの大柄だ。

 仮に男性にしてもかなり大柄な体格をしているが、女はそれをなぜだか女性と思ったし、それを疑う事もなかった。

 ただ、人間か、と言われれば首をひねってしまう。

 そんな雰囲気を持っていた。

 

 それが人間ではない、それに気づけたのはその訪問者が訪ねるようになって一週間程度たったころだ。


 その日も深夜の三時頃にチャイムを鳴らされる。

 それで起された女は念のため、起こされてしまったのだから、と、防犯の為にドアの覗き穴を覗きに行く。

 もし強盗でドアをこじ開けようとでもしていたら、と、そう想像してしまうと確かめない訳にもいかなかったからだ。


 いつもの通りに笑った仮面を被った恰幅の良い恐らくは女性がそこに立っている。


 だが、女は気づいてしまう。

 訪問者には影がないのだ。

 女から感じていた違和感の正体はこれだ。すべてにおいて影がないのだ。

 このアパートの廊下には夜でも電気はついている。

 ドアの前にたてばそのせいで多少は影になるはずなのだが、それがないのだ。

 被っている仮面のせいで気づけなかったが、影になっている部分がどこにもないのだ。

 まるでライトで全方位から照らされているかのように、全く影がない。


 そのことに気づいた女はドアの前で震えだす。

 そして、覗き穴を覗いたまま、動けなくなった。


 表情のない仮面と目が合う様な感覚が女にはした。

 それでも目が離せない。

 動けなかった。


 けど、その訪問者はしばらくすると何事もなかったかのように引き返していった。


 足音はなし。

 曇りガラスに映った訪問者を見ていたが、体を揺らさずにすーっと滑るように動いていくのが見えた。


 女は朝まで自室で震えていた。

 そんな日を何日も女は過ごす。


 女はついに耐え切れなくなり大家に話すが、大家はそんな話は信じない。

 だが、チャイムの、インターフォンなら夜中の間ならないようにできる、そう言う設定があると教えてくれる。


 そして、女はそれを実行する。

 それにより真夜中のチャイムで起されることはなくなったが、真夜中の訪問者は今も毎日訪ねてきている事は変わらない。


 毎夜、三時ごろにチャイムを鳴らしに来るのだ。

 もし、それに出てしまうとどうなるのか、女は怖くて仕方がなく、結局安眠できることはなかった。





ほうもんしゃ【完】

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