にゅうどう
少年は田舎に住んでいる。
住んでいる家もいつの頃からは建っているかわからない、平屋の家だ。
藁ぶき屋根、というわけでもないが、土間があるような、そんな古い家だ。
そんな家の窓から真夜中に何かが見える。
少年には窓の外にいきなり柱が生えたように見えた。
音もなく生えた。
ふと、窓を見たらそれはそこにあった。
太くごつごつした柱のような何かだ。
少年はなんだと、窓から身を乗り出してそれを見る。
すぐに気づく、それは大きな大きな足だった。
巨人の脚だ。
それが音もなく庭に、少年の部屋の窓の外にあったのだ。
少年は驚く。
そして、その巨人の全体像を見ようと見上げるが、ひっくり返ってしまうほど背が高い。
少年は途中で見上げるのをやめて、脚をよく観察する。
ところどころにすね毛も生えている。
大きな足もある。
岩のような足の爪も生えている。
大きさこそ違えどそれは人間の物のように見える。
だが、大きさが桁違いに大きい。
こんな人間が居ないことは少年だってすぐにわかるほど大きい。
少年はすぐに、見上げ入道だ、と妖怪の名を思い浮かべる。
少年の知識では、見上げ入道は見上げてはいけない。
そして、退散させる呪文があったと思ったのだが、少年はそれを思い出せない。
少年が困っていると、少年はなにかの視線に気づく。
少年がその視線の方、窓の方を見えると、大きな、大きな顔が窓を覗き込んでいた。
大きな目が顔の中心に一つ、口も鼻もない、大きな一つ目だけがある顔が、覗き込んでいた。
少年は驚いて尻もちをつく。
声も出ないほど少年は驚く。
見上げ入道ではなかったと少年は考える。
上から覗き込まれているから、見下げ入道だ、などと適当なことを思いつつ、少年は逃げ場もなく尻もちを動けなかったので死を覚悟した。
だが、その一つ目の巨人は顔を上げ、そして、音もなく巨大な足で暗闇へと消えていった。
少年はそのまま腰を抜かし、しばらく尻もちをついた状態ではあったが、無事だった。
このことを、親や友人らに話すが、誰一人として信じてはくれなかった。
そのうち少年も、あれは見間違いかなにかだったのだと、思うようになった。
それだけの話だ。
にゅうどう【完】




