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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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しぬまえのはなし

 男は何もかもうまくいかなかった。

 男は行き詰っていた。

 だから、男は首を吊ろうとしていた。


 自室だ。

 自室と言っても借り物のアパートの一室で、だ。


 このアパートの大家に迷惑がかかる。

 確かにそうだが、男にはもうそんなことも考える余裕がなかった。

 早く終わらしたかった。

 人生を終わらせたかった。


 首を吊る紐は荷物をまとめるビニール紐だ。

 それしか手元になかった。

 部屋の電灯にそれを結びつけベッドの上に立ち、紐を首にかける。

 後はベッドから飛び降りるだけ、というときだ。


 男は声を掛けられる。


 この部屋には男意外に誰もいないはずだ。

 なのに声を掛けられた。

 声を掛けられた方を見ると、女の子がいた。

 幼い女の子だ。


 それが自分のベッドに座り込んでいる。

 しかも、今は朝方がもう近いが深夜だ。

 そんな時間になぜか幼い女の子が自分の部屋にいるのだ。


 男は驚いてベッドから転げ落ちる。

 それで男の首にビニール紐がかかる。

 幸運なことでもなく順当に、電灯が天井から落ちて男は首を吊ることはできなかった。

 男の体重に電灯を天井に止めていた金具が耐えきれなかったのだ。


 深夜に凄い物音をさせて男は床に転げ落ちる。

 そして、その上に電灯まで落ちて来る。

 男は本能的に電灯を受け止め、事なきを得るが、電灯の留め具は壊れているのでもう使い物にはならないだろう。


 電灯が取れてしまったことで男の部屋は真っ暗になる。

 だが、ベッドの上の少女はうっすらとだが、青白く光って見えた。


 男が頬けていると、少女が再び男に声を掛ける。

 ねえ、なにをしているの? と。


 男は何も考えずに、いや、考えられずに、死のうとしていた、と素直に返事を少女に返す。

 そうすると少女は嬉しそうに笑う。

 ニヤリと嫌な笑い方をする。

 少女はベッドの上で座り込んだまま笑い、男を見る。

 そして、ならその命を私に頂戴、と語り掛ける。


 男はこの少女は死神か何かなのかと、理解する。

 ならちょうどいい。

 死ぬことすらも出来なかった自分を連れてってもらおうと、そう考えた。

 男は好きにしてくれ、と少女にむかい投げ槍に答える。


 そうすると少女は男に手を伸ばす。

 そして、少女は呟くように、私は生きたいの、とそう言ったのだ。

 男はもうこの少女は死んでいるのではないか、そんなことを考えていたがもはやどうでもよかった。


 男が死んでいるのを発見されるのは少し後のことで、数週間経った後だ。

 腐乱死体により部屋は凄い惨状になっていた。


 だが、その代わりというわけでもないのだが、近くの病院に入院していた女の子の容体が良くなったと言うことはあまり知られていない。




 その事を男は死後に知る。

 そして、自分も最後に良いことができたと、満足そうにうなずいて消えていった。




しぬまえのはなし【完】

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