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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ゆかがきしむ

 家に床が軋む場所がある。

 無論、何もしなければ軋まない。

 その付近を歩くと、その床に乗ると、ギギギッと音を立てて軋ませるのだ。


 この家に住む女は不思議に思っていた。

 リビングの一カ所、出入り口の付近の床がいつも軋むからだ。


 もうこの家に住みだして十年以上になる。

 女がこの家に嫁いで来た時から、その場所は軋む。

 リフォームして床自体を張り替えたことがあった。

 でも、その場所は今も軋むのだ。


 リフォームしたときの業者に床板を張り替えても同じ場所が軋むのですが、と話を聞くと、もしかするとそこだけ湿気が溜まりやすいのかもしれないですね、と、言葉を濁された。

 元々子供の頃からこの家に住んでいる夫に聞くと、そう言えばそこらへんで軋むような、と特に気にしている様子もない。


 女は不思議に思いつつも、床が軋むだけで不便はない。

 床が抜けてもすぐ下にはコンクリートの床があるだけで、大事になるわけでもない。

 女も深く考えはしなかった。


 だが、とあることをきっかけに女はその軋む床が怖くなる。

 そのきっかけというのが、息子の誕生日会の事だ。


 息子の友人らを呼び盛大に誕生日会を開いた。

 女は朝から腕によりをかけて料理を大量に作り、息子の友人らをもてなす。

 そこに来た息子の友人の一人が、女にむかい聞いたのだ。


 あそこになっている男の人は誰なんですか? と。

 ずっとこちらを睨むように見ている、と。


 女はその息子の友人が指さす方を見る。

 そこには誰もいない。

 ただあるのは歩くと軋む床だけだ。


 女が、首を傾げ、誰もいなけど? と、息子の友人にそう言うとその子は、そうですが、とすぐに諦めたようにそれ以上言及はしなかった。


 女は少し不気味なものを感じつつも、今日は息子の誕生日会だ。

 気を取り直して、誕生日会を盛り上げる。


 誕生日会の最後の写真を撮った。

 集まってくれた息子の友人らの集合写真を。


 その写真を見返しているときだ。

 あの軋む床を女が恐れるようになったのは。


 印刷した集合写真の隅に、ちょうどあの軋む音がする床の上に、背の高い見すぼらしい男性が恨めしそうな表情で写り込んでいたのだ。

 女は、息子の友人に聞かれたことも思い返す。

 あの子はきっとこの男性のことを聞いていたのだと。


 その後、何度もその場所を写真に撮ったりはするが、それが映りこんだのは、集合写真の時の一度だけだった。

 女の夫は何かの間違いだろ、と特に気にした様子はない。


 だが、女はその床が軋むたびに思うのだ。

 そこに見えない何かが今も立っているのではないかと。

 あの見すぼらしい男が、今も恨めしそうにこちらを見ているのではないかと。


 何かが起きたわけではないが、女はそこが怖くて仕方がないのだ。







ゆかがきしむ【完】

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