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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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といれのへび

 男は絶句していた。

 トイレから蛇が顔を出している。


 いや、正確には蛇かどうかわからない。


 それは人面蛇だったからだ。

 いや、ろくろ首なのか。


 男には判断がつかなかった。

 なぜろくろ首なのか蛇なのか判断がつかなかったかというと、顔は人間なのだが、毛が無い。

 髪の毛がない、眉毛がない。

 もちろん髭も生えてない。

 ついでに耳もない。


 それが、毛も耳もない頭部と長い伸びた首が、男には蛇に見えたからだ。


 青白い肌でその首はニヤリと笑っている。

 そのまま微動打しない。

 男か女かも判断がつかない顔つきをしている。


 トイレから顔を出したろくろ首とも人面蛇とも取れるそれは、ただニヤニヤと男を見て笑っているだけだ。


 男はもよおしていたが、流石にこんな状態のトイレで用を足すことは出来ない。

 男は焦る。


 恐怖よりも漏らしたくない、という思いが勝り色々と考えたりする。

 水を流せば流れてくれるかと思ったが、どう見てもその人面蛇の首は太い。

 こんなものが流れるとは思えない。


 そもそも実体があるのかどうかも男には判断がつかない。


 とりあえず男は開けていたトイレのドアをそっと閉じた。

 そして、近くの公園にある公衆トイレへと走った。

 男が催しているのは小の方だ。

 もし仮に公衆トイレでも大便器から顔をだしても小便器で用を足せばいい。

 そう考えたからだ。


 ただそんな心配は男の気苦労だった。

 公衆トイレには人面蛇はいなくゆっくりと用を足すことができた。


 男は自宅のマンションに帰る。

 そして、トイレのドアを開ける。

 それはまだそのままだ。


 ニヤニヤと笑みをたたえてトイレから、鎌首をもたげるように顔を出している。


 微動打しないのでもしかして造り物で誰かのいたずらではないか、男はそう考える。

 そして、それを確かめようと手を伸ばそうとすると、その人面蛇は男の手に反応して男の手を見る。


 造り物ではない、男はそれを理解する。

 では、これはなんだ、と男は考えるが理解できない。

 何も理解できない。


 男はとりあえずそれに、帰ってくれないか? と語り掛けた。

 そうするとその人面蛇は、ゆっくりとトレイの中へと引っ込んでいった。

 最後にゴゴゴゴッと何かを吸い込むような音を立てて完全に消えていった。


 案外言葉は通じるものだ、と男は思ったが、思い返すと恐怖が遅れてやって来た。

 その日の夜は男はまともに寝ることもできなかった。

 とりあえず、引っ越しを考慮しなければならないし、自宅のトイレはしばらく使う気にはなれなかった。






といれのへび【完】

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