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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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しゃべるうし

 少女は田舎に住んでいた。

 牛が人に引かれ道を歩いていても不思議には思わない、そんな田舎だ。


 ただなんで牛が人に引かれて歩いているのか、少女はその理由を知らない。

 農作業で使う訳でもない。

 乳牛というわけでもない、食肉用の牛というわけでもない。


 ある種のペットのような物で散歩で歩かせていたのかもしれない。

 ただそれにしては連れている人は多い。


 もしかしたら、また別の意味があったのかもしれないが少女はそのことを知らない。


 まあ、そんな土地柄だ。

 柱に牛を引く紐を括りつけられ、道端に一頭、牛がいても少女はさほど驚かない。

 ただ少女もこの土地に住む人間だ。牛という動物の危険性は幼いながらに理解している。

 その放置された牛に不用意に近づいたりしない。


 少女は道の柱に括りつけられている牛から少し離れてその道を行く。

 牛は少女にとって珍しいものでもない。

 それほど気にするわけではないが、やはり慣れてない牛に近づくのは危ない。


 少女が牛の前を通り過ぎたときだ。

 ねえ、少し待って、と声を掛けられる。

 少女は声がした方を向く。

 そこには牛がいた。


 道に打ちすえられた柱に紐を括りつけられた牛がいる。

 それ以外に、ここには誰もいない。


 少女はキョロキョロとあたりを見間渡すが、やはり誰もいない。


 気のせいだったかと、少女が先を急ごうとしたときだ。

 牛の口が開き、そこから声がする。

 だから、少し待ってって言っているじゃない、と。


 少し年老いた女性の声だ。

 それが牛の口から聞こえた。

 流石に少女も驚く。

 牛には見慣れているが、喋る牛は少女も初めてだ。


 恐る恐る少女は、今のは牛さんが話したの? と、牛に聞く。

 そうすると牛が、そう、少し困っているの、と、牛が返事をする。


 少女は訳も分からなかったがまだ幼い。

 不思議に思いつつも、恐怖は感じなかった。

 だから、少女は牛に言葉を返す、なにに困っているの? と。


 少女が返事をすると、その牛は人間の様に笑みを浮かべる。

 少女はその牛の笑みが少し怖く感じた。


 だが、牛は言葉を発する。人間の言葉を。

 飼い主が私をここに置いたままどこかへ行ってしまったので呼んで来てほしい、牛は確かに少女にそう言った。

 飼い主は○○という。


 少女は○○という苗字に聞き覚えがある。

 いや、嫌というほど知っている。

 だが、問題がある。

 そのことを少女は牛へ伝える。

 どこの〇〇さん? この辺りはみんな〇〇さんだよ? と、少女は答えた。

 なんなら少女も〇〇という苗字だ。

 ただ少女の家では牛は飼っていない。


 そうすると、牛は困った表情を浮かべる。

 自分は牛だからよくわからないと、そして、なら自分で帰るからこの紐を柱から解いておくれ、と牛は言い出した。


 少女は流石にそれはできないと、そう思った。

 牛は危険だと少女は知っている。

 それに紐はかなり硬く結ばれている。

 まだ幼い少女の力ではほどけそうになさそうに思える。


 なので、私ではその紐は解けそうにないから誰か大人を呼んできます、そう少女は答えた。

 そうすると牛はすぐに、それはダメ、やめて、そんな事されたら私は悪い人に売られてしまう、と言い出した。


 少女にとって、この辺りの人は皆家族のようなものだ。

 そんな悪いことをする人はいない。

 少なくとも少女はそう思っている。


 なので、少女は後ずさる。牛から距離を取ろうとする。

 そうすると、牛は焦ったように、早く、この紐を解いて、悪い人に売られてしまう、と叫び出した。


 そこへ近所のおじさんがやってくる。

 少女も良く知っているおじさんだ。

 少女はそのおじさんの元に駆け寄り、牛が喋ったことを伝えた。


 そうすると牛は暴れ出す。

 力尽くで紐を引きちぎろうとするように。


 おじさんは少女を抱えてその場から逃げ出す。


 そうして、猟者の爺さんの家に行き、おじさんは叫んだ、△△△が出たと。

 おじさんは凄い剣幕で爺さんにその牛の場所を伝える。

 それを聞いた爺さんは猟銃片手に走り出していき、しばらくすると、ズドン、と音が辺りに響く。


 その後、なんだかんだあり少女が家まで送り届けられたときにはもう日が暮れていた。


 次の日、大量の牛肉が少女の家に届けられる。

 そして、少女の両親はそれですき焼きを作る。

 だが、その肉で作られたすき焼きを食べるのは少女だけだ。


 両親は決してそれに手を付けない。

 なのに両親は、少し厳しく少女に言う。

 それは少女の分だから、しっかりと食べなければダメなんだよ、と。


 少女がその肉を食べ終わると、少女は学校を休み、お寺に連れてかれた。

 そこに、少女を助けたおじさんと猟者のお爺さんもいた。

 おじさんとお爺さんは少女に肉を食べたかい、と聞かれ、少女も頷く。

 そうすると二人は満足そうに頷いて、その晩は三人で寺に泊まった。


 寺では坊さんが三人に向けて念仏が唱えられたが、少女にはよく理解できなかった。


 その後は何が起きたか?

 何も起きない。


 三人とも肉をちゃんと食べたのだから。






しゃべるうし【完】

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