つくえのしたでうずくまる
少女が家で自分の机に着こうとしたときだ。
目が合った。
誰と?
誰だかはわからない。
少女にはそれが人間ではないように思える。
裸とも何か布を纏っているようにも見える。
そもそも、はっきりとは見えずぼやけて見ている。
人間ではない事は確かだ。
そんな、ぼやけてみる何かが、人の形をした何かが、少女の机の下から少女を見上げていた。
それと少女は目が合ったのだ。
少女は悲鳴も出ないほど驚く。
ただその存在は机の下にうずくまり、机の下から動こうとしない。
机の下で怯えるように、震えながらうずくまっている。
少しの間があったと、冷静になった少女はどうすべきか考える。
とりあえず両親を呼ぼう、そう考えたが、まだ両親は帰ってきていない。
家には少女一人だ。
助けを呼ぶことも出来ない。
逃げ出したいが、このうずくまっている存在から目を離すのも怖い。
自分が目を離したすきに、襲いかかられたり、どこか別の場所に移動して潜まれでもしたら、と考えるとそっちの方が嫌だ。
少なくとも今は何もされていないのだから。
少女は迷った挙句に、椅子を机の下に押し込んだ。
それも勢いよく押し込んだ。
そうすると、それはフワッと霧散するように消えてしまう。
椅子を引き戻したら、そこにはもう何もいなかった。
少女はあれは何だったのだろうと、考えるが答えは出ない。
だが、いなくなったらそれでいい。
けれども、今は流石にこの机を使う気にはなれない。
なので、少女はリビングに行ってそのテーブルを使おうとする。
だが、いるのだ。
今度はリビングのテーブルの下に。
先ほどのぼやけたように見えるうずくまるなにかが。
少女は今度はテーブルの下にゴミ箱を勢いよく突っ込んだ。
台所にあった生ゴミなんかも入れてあるゴミ箱だ。
うずくまるなにかは少し嫌そうな顔をして消えていった。
リビングのテーブルも使えない、そう思った少女は自分の部屋に一端帰る。
そうするといるのだ。
机の下に、ぼやけ、うずくまる何かが。
机の下から少女を見つめているのだ。
少女は理解する。
これはそういう存在なのだと。
机に類する物の下からこちらを見て来る、そんな妖怪か何かなのだと。
少女は廊下のロッカーから虫用の殺虫剤を取って来て、それにかける。
一吹きどころか、しばらく吹き付ける。
そうすると、それはとても嫌そうな顔をして消えていった。
少女はそれで決心する。
これは戦いなのだと。
嫌なことをされたら嫌なことでし返せば良いのだと。
そこで少女は思い出す。
幽霊には消臭剤が効くという話を。
少女の家にもあったはずだと。
リビングに行くとそれはテーブルの下に既にいる。
それを確認した後、窓の近くに置かれている消臭剤を見つける。
少女はそれを手に取り、テーブルの下でうずくまるそれに吹きかける。
それはやはり嫌な顔をして消えていった。
だが、これでは今までと一緒だ。
恐らく自室に帰れば、机の下にあれはまたいるのだと、少女には思えた。
そこで少女は和室へ行き、仏壇に供えてある線香を手に取る。
線香に火を灯し、それを手に持つ。
線香を持ちリビングに戻ると、それは既にテーブルの下にいる。
少女はお皿の上に線香を供え、それをテーブルの下に置いた。
そして、成仏してください、そう思いながら少女は両手を合わせた。
それは、少し驚いた顔をして消えていった。
それが成仏したかは知らない。
だが、それ以降少女の前には現れなくなった。
つくえのしたでうずくまる【完】




