けだま
少女が学校からの帰り道、ゴミ捨て場に粗大ごみが捨ててある。
丸い天板を持つお洒落なサイドテーブルがごみ捨て場に捨ててある。
たしかにしっかりとしたお洒落なサイドテーブルだが、少女はそれを欲しいとは思わない。
なぜなら、その机の上に真っ黒なカツラのような毛玉が、恐らくは髪の毛でできた毛玉が、置かれているからだ。
真っ黒な髪の毛が絡み合った毛玉は不気味だ。
恐らくはカツラなんだろうが、異様な雰囲気を醸し出している。
もちろんそれ自体が動くわけではない。
ただサイドテーブルの上に置かれているだけなのだが、まるでそれ自体に視線でもあるようかに何かを感じるのだ。
そんな雰囲気を醸し出している毛玉だ。
少女は一度その毛玉を見てしまうと、その毛玉から目を離さないでいた。
そう、毛玉なのだ。
カツラやウィッグとは少し違う。
相当なボリュームでもあるのかその毛玉は文字通り、玉、なのだ。
バレーボールくらいの真っ黒な光沢を持つ毛の塊なのだ。
それは異様な気配を放つという物だ。
動くわけもなくただ捨てられたサイドテーブルの上に鎮座しているだけなのだが、とにかくその毛玉は異様な気配を醸し出している。
そのせいで、少女はその毛玉から目を離せなくなってしまっている。
少女が毛玉から目が離せない明確な理由はない。
しいて言えば、何となくだ。
いや、その毛玉に隙を見せてはいけない、そう、そう少女が感じているのかもしれない。
しばらく少女と毛玉がにらみ合う。
ただそれだけの時間が無駄に流れる。
少女は少しずつ後ずさり毛玉から、いや、ゴミ捨て場から距離を取る。
その時だ。
毛玉が少しだけ動いたような感じがする。
今まで微動だしなかったのに。
そして、少女は見てしまう。
その毛玉の中にたしかに目が二つ。
少女をじっと見つめる目があるのを。
少女はそれを見た瞬間、自分の家に向かって走り出す。
後ろを振り向かず一生懸命に、力の限り、逃げ出した。
次の日には、そのゴミ捨て場には毛玉もサイドテーブルも既に片付けられていた。
あの毛玉が何だったのか。
少女は知らないし、知りたくもない。
ただ髪の毛が怖くなった少女は、しばらくの間だが自分の髪の毛をできる限り短くしていたという。
けだま【完】




