かしてんぽ
とあるショッピングモールの貸店舗に幽霊が出る、という噂がある。
どんな幽霊なのか、そこまでは噂では語られていない。
噂では、その貸店舗に幽霊が出る、としか語られていないからだ。
だが、その貸店舗は入るお店が変わっても、必ず幽霊が出るのだという。
だから、お店にではなく、貸店舗自体に、その場所に幽霊が出る、そんな噂が流れたのだ。
実際のところはわからない。
噂も背びれ尾びれが付き、突拍子もないものになってしまっている。
けれども、そう言う噂が流れれば、怖いもの見たさで訪れる客も少なからずいるものだ。
それを客と呼べるのかどうかは、また別の話だが。
今日、その貸店舗を訪れた少年達もそのような者達だ。
今、その件の貸店舗に入っているのは少し怪しげな輸入雑貨屋だ。
外国の様々な、少し怪しげな雑貨を取り扱っている。
その大半は、何に使っていいかもわからない、そんな品だ。
そんな怪しさあふれるお店だ。
ただでさえ怪しい雰囲気なのに、幽霊が出るという噂まである。
何とも言えない胡散臭い雰囲気を店全体から出ている。
だが、それが、その胡散臭さこそが、そのお店の魅力に一役買っている。
少年達はそんなお店を見て回る。
よくわからない物が多く飾られている。
幽霊が出る、という噂も色々と変化してしまい、正確な情報はない。
そもそも噂に正確な情報を求めるのが間違いではあろうが。
なので、少年達はそのお店をくまなく見て回る。
そんな様子をこの店の外国人オーナーが満面の笑みで見ている。
その浅黒い顔を心からの笑みで、少年らを見守っている。
少年らはとある場所にたどり着く。
薄暗い店内になぜか、その場所だけで煌々とライトアップされた場所だ。
そこには何も入っていないショーケースだけが置かれている。
そんなよくわからない場所だ。
如何にも、な場所に少年達は期待に胸を膨らませる。
そして、少年のうちの一人が声を上げる。
ショーケースには確かに何も入っていないのだが、斜めから見るとショーケースの中に何かが見えた、と。
少年達はこぞって体を傾け斜めから、そのショーケースを見つめる。
そうすると確かに何も入ってないショーケースの中身がうっすらと見えて来る。
どういう原理かわからないが、斜めからそのショーケースを見ると、空のはずのショーケースの中身が見えるのだ。
だが、その中身というのがよくわからない。
灰色の何か、なのだが妙にぶよぶよしていて、それが何なのかまるで判断が付かない。
まるで、カメラのピントがあってないかのようにぼやけていて、上手く見ることが出来ない。
だが、少年の一人が、あっ、と声を上げる。
何か気づいたように、声を上げる。
全員がその少年の方を見る。
そして、その少年は告げる。
これは顔だと、ぶよぶよに膨らんだ人の顔だと、それがショーケースいっぱいに詰まっているのだと。
そう言われた少年達は、再び斜めからショーケースを見る。
どんどん角度をつけて斜めになって見て行くと、まるでピントがあっていくように、それがはっきりと見えるようになる。
それは確かに人の顔だ。
ぶよぶよで、灰色ではあるが、膨れ上がった人の顔だ。
少年達全員がギョッとして顔を見合わせて、悲鳴を上げそうになる、まさにその時だ。
少年達の後ろから、そっと怪しげな外国人オーナーが少年達に声を掛ける。
ソレ、見テシマッタネ? 大変ヨ? オ守リ、必要ダヨ? と片言の日本語で少年達にやさしく語り掛ける。
少年達は真顔で、お守りください、と声を揃えて言った。
外国人オーナーは満面の笑みで、一個、五百円ネ! と、答えた。
その怪しげな輸入雑貨屋は、その貸店舗に珍しく長く居座っていた。
ただそれだけの話だ。
かしてんぽ【完】




