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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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あかごのなきごえ

 どこからともなく一生懸命に泣く赤子の泣き声が聞こえてくる。

 女は不気味に思っていた。

 今は仕事帰りの途中で真夜中とも言って良い時間だからだ。


 夜泣きする子を近所迷惑にならないように外に連れ出しているだけかもしれない。


 けど、真夜中にどこからともなく聞こえてくる赤子の泣き声はどこか不気味だ。

 女は大変そうだ、と、不気味だ、と思う気持ち半々で夜道を歩く。


 この辺りに公園などはない。

 ただの通りしかない。

 赤子が居ればすぐに気づきそうなものだが、それを抱く母親の姿も見ない。


 それに少しおかしいのだ。

 赤子の泣き声は様々な方向から聞こえてくる。

 時には後ろから、そう思えば前方から、すぐ真横から聞こえてくることもあった。


 ただ赤子もそれを抱く誰かの姿もまるで見当たらない。


 だから、女も不気味に思えてくるのかもしれない。

 ただ単に赤子を抱く母親もうろうろしているだけなのかもしれないが。


 それでも、しばらく歩いたにもかかわらず、つかず離れず赤子の泣き声が女に付きまとう。

 流石にこれはおかしい、女が確信し始めた時だ。

 赤子を抱く母親の姿をやっと見つけることができる。


 ぼさぼさで黒く長い髪。

 真っ白なワンピース。

 なぜか裸足だ。

 大事そうに泣く赤子を抱えている。


 その姿に女はギョッとしたものを感じる。

 何か理由があったわけではない。

 それを見た瞬間、言い知れぬ恐怖を、女は感じたのだ。

 泣く赤子を抱く母親は街路樹の脇に立って、子供をあやしている。


 女の進行方向だ。

 ここで引き返すのもおかしい、女は嫌だと思いつつも早歩きでその母親の前を通る。


 そして、女が母親の前を通る瞬間だ。

 女が赤ちゃんの泣き声はこんなにも大きく必至なんだ、とそう思った時だ。


 母親が女を見る。

 ぎょろりとした大きな目で、前を通り過ぎる女を見る。

 視線に気づき女も母親の方を見てしまう。


 その瞬間だ。

 女が母親の前を通り過ぎる瞬間だ。


 赤子を抱く母親が女に向かって大事そうに抱えていた赤子を投げてよこしたのだ。

 女は慌ててそれを受け止める。


 が、重い。

 物凄く重い。

 思ったよりとかそういう話ではなく、明らかに重い。

 まるで石の塊でも投げつけられた、そう思えるように重い。


 投げつけられた女があまりにも重さでそのまま倒れ込んでしまうほどの重さだ。


 女はパニックになりながらも、赤ちゃんは無事かと確認しようとする。

 だが、女が投げつけられたのは赤子ではない。

 正真正銘の石だ。

 一抱えもある石だ。

 重いはずだ。


 女が、顔をあげて母親の方を見ると、そこにはもう誰もいなかった。

 女は投げつけられた石を、一抱えもある石を丁寧に自分からどける。


 石ではあるが、なぜかあんまり乱雑に扱ってはいけない気がしたので、女は丁寧にその大きな石を街路樹の脇に置いておいた。


 もう赤子の泣き声は聞こえてこない。

 女にも何がなんだからわからないが、女は急いで帰宅した。


 それからすぐのことだ。

 女の妊娠が発覚したのは。


 女はそう言うことだったのか、と、何もわからないが、なんだかしっくりと来ていた。

 そして、投げ出したくなるほど子育ては大変なんだろう、と心に覚悟を決めた。






あかごのなきごえ【完】

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