表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それなりに怖い話。  作者: 只野誠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/678

まよなかのこえ

 真夜中に声がする。

 平日も週末も。時間も一定ではないが声がする。

 だいたい深夜の一時から三時の間に、外から声がする。


 女性か、子供のような、少し高い声が外から聞こえる。


 男が住んでいる部屋は裏路地に面している。

 そっちのほうから声がしてくる。

 ただ二階なのでそこそこ距離がある。

 声はして、たしかに聞こえるのだが、その声が何を言っているかまでは聞き取れない。

 そんな声が、ほぼ毎日聞こえてくる。


 週末なら遊びまわっている大学生なのかもしれないが、平日だろうがなかろうが、深夜に声が聞こえてくるのだ。

 会話している、何かを話している。

 ただ淡々と、笑うでもなく、怒るでもなく、ただ淡々と長々と、会話をしている声が聞こえてくる。


 それほど大きな声ではないが、男はどうしても気になって、その声がしだすとどうも寝付けない。

 いつしかイライラは募り、どんな奴が夜中に話しているのか、気になって来た。


 そこで週末、男は雨戸を少しだけ開き、声のする裏路地のほうを覗けるようにしておいた。

 もちろん部屋の電気はすべて消し、部屋の中から覗いていることをばれないようにしてだ。

 毎晩ではないが、夜中に長々と話をし続ける非常識な連中だ。

 自分が直接注意するのは逆恨みでもされたら困るからだ。

 とりあえず誰だか確認して、後は警察にでも、男はそう考えていた。

 それで警察が動いてくれるかどうか、男にはわからないが溜飲が少しでも下がるならと、そう思っての行動だった。


 そうなってくると逆にその話声が今度は待ち遠しい。

 部屋を暗くし、ほんの少しだけ開いた雨戸から裏路地を見続ける。

 まるで童心にかえったかのように男はわくわくしていた。


 しばらく待つ。

 時刻にして深夜の一時半くらいだろうか。

 話し声が聞こえてくる。

 雨戸や窓をあけているせいか、声が普段よりはっきり聞こえる。


 女の声だ。

 まだ若い女の声だった。


 やはり誰かと話してる。

 けど違和感がある。

 少しの間、その会話を聞き続けて男は違和感に気づく。


 会話しているようだが、それは会話ではない。

 

 返事が何一つない。

 ただただ一人が何かを、まるで会話しているかのようにしゃべり続けているのだ。


 男はその時点でゾッとしたものを感じた。

 けれど、雨戸の隙間から目を離せなかった。


 声が聞こえ始めてしばらくすると、それはゆっくりと現れた。

 雨戸の隙間からでも、しっかりと見えるように裏路地をゆっくりと歩いて現れた。


 それは女だった。

 ふらふらとしてぼんやりとした女だった。


 だが、おかしい。

 まるで空に浮かぶ月のように、ぼんやりと淡く白く、輝いて見えた。


 男は、ああ、あれは人間ではないんだ、と理解できた。

 雨戸の隙間から、チラッと一目見ただけだが、それが人間ではないと理解できてしまった。


 男は息を殺し、冷や汗を流しながら声が聞こえなくなるのを待った。

 完全に、声が聞こえなくなってから、男は雨戸を音が出ないように静かに締め、鍵をかけ、窓を閉めた。

 

 その後、台所でコップ一杯の水を一気に飲む。

 男は何も見なかったことにして寝ることにした。


 今でも毎晩ではないが、深夜に外から、あの裏路地から声が聞こえてくる。

 だが、男は気にしないことにした。

 気にしてはいけないことだと思うことにした。

 もう覗こうとは決して思わない。





まよなかのこえ【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ