表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それなりに怖い話。  作者: 只野誠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

240/678

のっぺらぼう

 いつの日からか、男は妻がのっぺらぼうに見えていた。

 夫婦の間柄は冷え込み、まともに会話もない。

 男が頼めば妻は大概の事はしてくれるが、頼まれなければ妻からは何もしない。


 そんな生活を送っていたせいか、男は妻のことがのっぺらぼうに見えていたのだ。

 表情がない、自分に関心がない、どこか虚ろな、そんな妻が、男にはのっぺらぼうに見えていた。


 このままでは良くない、そう思った男は妻と話し合う事にした。

 まずは男は自分が何か気に障る様な事をしたのか、と妻に聞いた。

 そうすると、妻は、特にそのような事はない、と、答える。

 では、不満があるのか、と男が聞くと、妻は、不満があるわけでもない、と答える。


 そこで、男はもう自分のことを愛していないのか、と聞くと、妻は、初めから愛してなどいない、と答えた。

 男は驚く。ならなんで自分と結婚したんだ、と、聞く。

 妻は、結婚してくれと言われたから、と返す。


 男は妻のことがわからなくなる。

 そして、男は妻に、おまえが俺にはのっぺらぼうに見える、と正直に話した。


 そうすると、妻は顔を上げる。

 男にはやはり妻の顔がのっぺらぼうに見える。

 目も鼻も口もない。

 そう言う風に男には、妻が見えているのだ。

 男はのっぺらぼうと言われ妻が怒るかと思ったが、妻は笑いだす。


 妻は無い口を開く。

 やっと気づいたの? 私は生まれてこのかたのっぺらぼうよ、と、笑いながら言った。


 そう言われた男は何もかもが理解できない。

 男にむかい妻は続ける。


 私は人間じゃなくて、のっぺらぼうなの。ああ、比喩とかそういうのじゃなくて妖怪とかそういうのね、と。


 男は更に訳が分からない。

 自分の妻が妖怪だったと、妻本人が言っているのだ。

 だが、妻はさらに続ける。

 妖怪だもの、人間を愛するわけないわ、とも。


 だが、男が出会った頃の妻は確かに顔があったのだ。

 妖怪ではなかったはずだ。

 それを伝えると、妻はまた笑う。


 そして、答える。のっぺらぼうとはそういうものだと。

 周囲に魔法をかけて人間世界に紛れ込んでいるのだと。

 その魔法が解けた為、正体が見えただけなのだと。


 で、どうするの? あなた。私と別れますか? と、妻は顔がないのに、表情がないのに、笑っているように語り掛けてきた。


 男は考える。

 そして、すぐに結論を出す。

 そういうものなら、それでいいと。

 不満がないのなら、それでいいと。


 そう言われた妻は、やはり顔がないのに、表情がないのに、驚ていた。


 男は今でものっぺらぼうの夫だ。





のっぺらぼう【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ