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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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らくじつ

 日が暮れる。

 真っ赤な、それこそ焼けるような夕日が地平線に吸い込まれていく。


 狭間の時間、黄昏時も終わり、夜がまさに今迫ってくる。

 夕闇が真なる闇に、より濃い闇に塗り替えられていく。


 そんな時間、少女は帰路についていた。

 まだ空は明るい。

 けれど、地はほぼ闇に閉ざされている。

 沈みかけの日の光はもう地には届かない。


 帰り道を照らしてくれる、月もなく、街灯もない。

 真っ暗闇が少女の帰り道を覆い隠す。


 それでも少女は闇を恐れずに家を目指す。

 少女にとってはこの闇は日常だ。

 この辺りは街灯もない田舎なのだ。


 それでも普段は月明かりはあったのだが、今日は新月だからだろうか、夜空に月はない。


 少女が行く道は田んぼのあぜ道だ。

 周囲からは蛙の鳴き声だけが響き渡っている。

 暗闇の中でも少女は慣れたもので、まっすぐにあぜ道だけを歩む。

 遠くにうっすらと光る街灯が見える。

 あそこまで行けば、こんな真っ暗闇を歩く必要もない。

 少女はそう思い、足を速める。

 少女の目指す家もその街灯の向こう側にあるのだ。


 もう少しで田んぼも終わり街灯がある道へと行ける。

 そんなところで、街灯の光が届かないところで少女は足を止める。


 少女はこれ以上進むことはできない。

 あの街灯がある限り、光がある限り、少女は先に進むことはできない。

 少女が闇と共にあるからだ。

 少女はもはや闇の中でしか存在できない。


 帰りたくても少女は家に帰れない。

 あの街灯がある限り、少女は自分の家にたどり着くことはできない。

 少女はワンワンと泣くが、それは蛙の鳴き声にかき消される。


 少女は恨めしそうに街灯を見る。

 だが、街灯は街灯だ。

 道を照らす、その役割を物言わすこなすだけだ。


 少女は夜の間、その街灯を睨み続ける。

 そして、朝になる前に、日が昇る前に帰るのだ。

 なにも見ない闇の中へと。

 深い山の中へと。




 行方不明の少女が山中で見つかるのは、まだ少し先の話だ。

 街灯が経年劣化で故障したその時のことだ。



らくじつ【完】

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