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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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とけつ

 男は通勤の為電車に乗っていた。

 その日も、酷く混んだ電車だ。

 立つのもやっと、そんな混雑した電車だ。


 男の前に女が立っている。

 線の細く顔が青白い女だ。

 電車に揺られるのではなく、元からふらふらとしている。

 男の見知らぬ女だ。


 その女が急に咳き込んだ。

 昨今、流行り病があるので、男は少し嫌な顔をする。

 だが、女は更に激しく咳き込み始める。

 余りにも咳き込むので、周りの人もその女を見る。


 次の瞬間だ。

 女が口から何かを吐き出した。

 男ははじめ、それを嘔吐だと思った。

 だが、それは赤かった。

 赤黒いと言って言い。


 臭いでもわかる。

 血だ。

 女は咳と共に血を吐き出した。


 女が口元を抑えていた手にべっとりとついた自分の血を見て悲鳴を上げる。

 自分でも血を吐くとは思っていなかった女はパニックになる。


 男も目の前で血を吐かれ、あまりにも突然なことに何もできずに呆然とその様子を見ることしかできなかった。

 電車が駅に着いた時、その女は自分の足で急いで降りていった。

 その後、その血を吐いた女がどうなったのか、男は知らない。

 知る由もない。


 男も目を丸くして、血を吐くとかただごとじゃない、と、ある種の興奮をしていた。

 ただ、男には日常がある。

 ちょっとした他人の非日常を垣間見ても、男の日常は変わらない。

 電車の中で血を吐いた女を見たからと言っても、男の日常が変わるわけではないのだ。


 男は血を吐いた女の安否を想いつつも、会社に言ってそのことを同僚に話す。

 同僚もその話を聞いて、驚いた顔をする。

 そして、その話を聞いた同僚が急に咳き込む。

 男が、大丈夫かと、声を掛けると、同僚は床に手を着くようにして倒れ込み、そして、血を吐いた。


 男が慌てて声を上げて人を呼ぶ。


 その後、男の同僚は救急車で運ばれて行った。

 男は立て続けに、二人もの吐血を目にし、かなり動揺していた。


 そんな中、午後になって社長が同僚の容体について話し出した。

 同僚は、今は病院で検査中で命に別状はない、とのことだ。


 だが、今度は社長が急に咳き込む。

 そして、次の瞬間、口元を抑える手の隙間から赤い液体が噴出した。


 吐血だ。


 男は目が点になって立ち尽くす。

 男も怖くなる。

 自分の周りで立て続けに三人も吐血したのだ。

 何か変な病が流行しだしたのではないか、そんなことを考え出す。

 

 社内で悲鳴が飛び交う中、男だけは茫然と立ち尽くす。


 その日はまるで仕事にならなかった。




 ところで、三人が急に血を吐いたのは、ただの偶然なのだろうか?




 その後、その男の周囲で何が起きたのか。

 知る者はいない。

 誰もいない。




とけつ【完】

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