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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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あな

 穴がある。

 とある山の中腹辺りに、直径三メートルくらいの穴がある。

 底が見えないほど深い、上から覗くと黒い穴が見える穴がある。


 穴の底になにがあるのか、知っている者はいないのかもしれない。

 それほど深く暗い穴だ。

 この山にはそんな穴があり、その穴はマナコ様と呼ばれていた。


 少年がその話を聞いた時はもう少し幼いころで、その話を聞いて怖がっていた。

 だが、少年は小学校を卒業し、中学生にもなった。


 そんな話で怖がりなどもうしない。

 そう思っていた。

 だから、友人らに誘われたとき、少年も友人らについて行った。


 穴がある山へ。

 マナコ様の元へ。


 その山は立ち入り禁止とされているが、割と近くにある。

 それほど高い山でもないので、中腹まで行くのも割と楽だ。

 穴の場所、マナコ様の元まで行くのにそう苦労はしない。

 場所さえ知っていれば、容易いとも言っても良い。


 少年達だけでも簡単に行けてしまうほどに。


 少年達は容易く穴へ、マナコ様の元へとたどり着いてしまう。

 穴は唐突に存在している。

 付近には柵も何もない。

 山の中腹に唐突に丸く深い穴が存在している。

 

 確かに危険だ。

 この穴は相当深い。

 落ちたらまず助からない。

 そう思えるほど、深い穴だった。


 少年らが上か覗くと、完全な闇が見える。

 穴の底がまるで見えない。


 また穴の壁面もかなり絶壁となっていて、少年達には降りることも、落ちたら登ることも出来そうになかった。


 少年らはその穴、マナコ様に、畏怖を覚える。

 覗いていると引き込まれそうな、そんな深い深い穴だ。

 だが、少年の中の一人が、穴の一点を指さす。


 少年がそちらに視線をむけると、闇の中に見えたのだ。

 そして、少年はなぜこの穴が、マナコ様と呼ばれているのか理解する。


 それは大きな目だ。

 かなり離れた場所に見えたのにサッカーボールよりも大きく見え、その眼は黄色く爛々と輝いていた。

 そして、それが眼だと、確かに眼なのだと、まなこなのだと、一目でわかる、何か得体の知れない存在感があった。


 少年らの一人が叫び、逃げ出す。

 一人が逃げ出すと全員が次々に逃げ出していく。

 少年も走って逃げだす。

 もつれそうになる脚を、何とか動かして、できる限り早くその穴から逃げ出していく。


 山のふもとの道に出た少年らは足を止め息を整える。

 そして口々に、眼が見えたと、口にする。

 だから、マナコ様なのだと、全員が理解する。

 少年らはどうするか相談する。

 相談した結果、少年らはお寺の住職に相談しに行く。


 マナコ様を見てしまったと。

 相談された住職は顔を歪め怒る。

 危ない場所だから行くんじゃない、と。

 少年らが恐る恐るマナコ様は? と聞くと、そんなもんは知らん、と言って、あの穴に落ちるとどれだけ救出するのか大変かという話をしだした。

 あの穴の底には水が溜まっており、助けに行くのも大変だと、そう言って怒ったのだ。


 少年らはあっけにとられる。

 だが、危ないのも事実だ。

 少年らがあの穴へ近づくことはもうなかった。


 では、少年らが穴の中に見たものは何だったのか?

 それはやはりマナコ様なのだろう。

 もうマナコ様の話は誰にも伝わっていない。

 名前だけが辛うじて伝わっている。

 だから、名前しかない。

 何も起きない。


 ただそれだけの話だ。





あな【完】

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