たいふうのひ
台風の日、少年は家の窓から外を見ていた。
窓ガラスを叩く激しい雨、窓ガラスを揺らすほどの暴風。
台風だ。
横殴りの雨がベランダを挟んで窓ガラスに張り付いては垂れていく。
木々が揺らされ、普段では見れないほど斜めになって揺れている。
少年は窓に張り付いて、その様子を見ていた。
見慣れた街を雨が激しく打ち、街の汚れを洗い流していくように少年には思えた。
ふと、空を見る。
厚い雲に覆われたどんよりとした空を。
そこに雲ではない何かを見つける。
少年にはそれが竜に見えた。
それが本物の竜かどうか、それはわからないが、少なくとも少年にはそう見えたのだ。
台風の暴風雨の中を、悠然と白い竜が空を泳いでいるのだ。
少年はすぐに母親を呼んで、竜を指さす。
だが、母親は少年がいくら指を指そうが竜を見つけることは出来ない。
少年がスマホで撮影して見るが、画像には竜が映らない。
それで少年もあの竜が自分にしか見えない特別な物だとわかる。
少年は竜を見る。見続ける。
ただ竜を見続ける。
台風の中、雄大に空を我が物顔で泳ぐ龍を見る。
そして、竜が吠える。
そうすると、近くに雷が落ちる。
物凄い轟音が少年の感覚を刺激する。
少年は感動した。
深く少年の心にも突き刺さる。
そのことを、竜を見たことを少年は父親に告げる。
そうすると父親は、竜は水の神様だからそう言うこともあるかもしれないな、そう言って笑った。
少年は納得する。
なぜならば、竜が去った後の空は、あまりにも蒼天で晴れ晴れしいものだったからだ。
たいふうのひ【完】




