ひるさがり
昼下がり。
お昼過ぎだ。
アイツは特に夏の昼下がりに現れる。
お天道様が雲に顔を隠すと現れる。
アイツはよく、広間や台所に入り込む。
どこからともなく入り込む。
太陽が雲に隠れたときに入り込んで来る。
昼間なのに妙に暗い室内。
それはアイツのせいだ。
外は明るいのに、室内だけ妙に暗い。
まるで陽が落ちた後、夕暮れ時のように、妙に暗い。
まだ昼間なのに、妙に暗い。
台所が、居間が、廊下が、妙に薄暗い。
それはアイツのせいだ。
アイツ?
アイツはアイツだよ。アイツに名前なんて大層なものはない。
だから、誰にも知られていない。
誰もあいつを知らない。
知らないからこそ、勝手にどこへでもアイツは入り込める。
でも、気を着けた方が良い。
アイツは誰にも知られていないけれども、不幸を運んでくる。
良くないことを持ってくる。
まるで、それがお土産と言わんばかりに、良くないことを連れて来る。
だから、気を着けなければならない。
気をつけようもないのだけれども、気を着けなければならない。
アイツは不運と共に入り込んで来る。
アイツはお天道様が大嫌い。
薄暗い時は照らしてやれ、照らしてやれ。
ひるさがり【完】




