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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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あいす

 女は買いだめておいたアイスを一つ冷凍庫から出す。

 カチカチに固まった少しお高いアイスだ。


 蓋を開けて、金属のスプーンをアイスに突き刺す。

 まだ冷たく硬いアイスはスプーンを拒む。


 熱帯夜、風呂上り、エアコンの効いた部屋で食べる少しお高いアイスほど美味しい物はない。


 アイスが柔らかくなるのを待ちつつ、女は髪を乾かす。

 髪を乾かし終わることには、アイスは溶けてしまうかもしれない。

 冷凍庫から出すのに早すぎたと、女は考えつつ、髪を半乾きのままアイスにスプーンを突き立てる。


 少し柔らかくなったアイスにスプーンは簡単に突き刺さる。

 アイスをすくい口へ運ぶ。

 甘く冷たい、そして、濃厚な味わいが口いっぱいに広がる。

 ちょっとした至福な時に女はほほ笑む。


 再び女は髪の毛を乾かし始める。


 口の中のアイスがなくなり侘しくなり、アイスを手に取る。

 一口だけアイスをすくったはずなのに、アイスの三分の一ほどなくなっていた。

 

 女は首をかしげる。

 

 気づかないうちにそんなに食べてしまったのか、と、女は思う。

 が、すぐにそんなことはないと、思いなおす。


 女は不審に思い、アイスを食べるのやめる。

 食べた思いもないのに、減っているアイスなど、もう食べる気は起きない。

 そして、乾かし途中だった髪の毛を乾かす。


 ふと、アイスに目をやるとアイスはもう半分ほど減っている。

 確かに減っている。

 女は驚く。

 今度は間違いない。

 確かの減っている。


 何者かが居て、自分の目を盗んで、アイスを食べているのだと、女は確信する。

 女はすぐに部屋から出る。

 エアコンの効いた居心地の良い部屋から出る。

 後ずさりして、周囲を警戒して、部屋を出る。


 そして、女はとりあえずトイレへ逃げ込み鍵をかけ考える。

 アイスを食べられたからと、警察に電話して相手にされるかと。

 相手にされる気はしない。

 だが、部屋に誰かいることは確かだ。


 とっさのことでスマホすら部屋に置きっぱなしだ。

 スマホがなければ警察に連絡することすらできない。


 女は勇気を出して、トイレのドアを音もなく慎重に開ける。

 辺りの様子をうかがうが物音一つない。


 スマホは部屋だ。

 エアコンの効いている部屋だ。

 アイスを食べられた部屋だ。


 女は部屋のドアをあけ、部屋の中の様子を見る。

 特におかしいところも変わったところもない。

 誰の気配もない。


 そして、誰もいない。

 誰かが隠れるような場所もそもそもない。

 静まり返った誰もいない部屋があるだけだ。


 女はとりあえず部屋にスマホを取りに入る。

 その時気づく。

 アイスは既に空になっており、アイスのカップその下に紙が置かれていることを。


 その紙には、ごちそうさまでした、と、子供の字で書かれていた。

 女は何となく納得はしたが、怖いものは怖いので、とりあえず自分の部屋から出て、友達へと電話した。


 幽霊が出たから今日泊めてと。







あいす【完】

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