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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ただようもの

 女は日々の生活に疲れていた。

 日常的に終電間際まで仕事して、家に帰り寝て、起きて、会社へと向かう。

 そして、夜遅くに家に帰り寝る。

 そんな生活を続けていた。

 だから、彼女が今から見るものも、本当に現実に見たものだったのか、夢や幻だったのか、彼女自身わかっていない。


 女は今日も帰りの電車でぼーと窓の外を見ていた。

 外の景色もほぼ暗闇だ。

 普通の住宅はほとんど家の窓からも明かりすら漏れていない。

 アパートやマンションといった公共スペースのある建物だけが、稀に煌々とその明かりを放っているのが見える。

 それもすぐに通り過ぎていく。

 そんな夜遅い時間の住宅街の景色を女はただ茫然と何もせずに見ていた。


 ふと女がなにかに気が付く。何かが電車と並行するように飛んでいる。

 女はそれを風船か何かだと思ったが、電車と並行するように飛ぶ風船など聞いたことはない。

 ただ彼女は非常に疲れているし、頭もあんまり働いていなかったので、その風船のようなものを見続けた。


 それは半透明だった。

 顔のような三つの黒い穴のような物があった。

 そして、それなりに大きい。


 そんなものが電車と並行して飛んでいる。

 女は流石におかしいと気づき、自分と同じく窓の外を見ている乗客達に目をやる。

 特にその存在を気にしている者は、女以外にいなさそうだった。

 女は疲れ切った脳でそういうものなのだろうと判断し、それを再び見つめる。

 そのうち、顔のような三つの穴が、女には苦悩している人の顔に見え始めた。

 

 女はなんとなく風船も苦悩している、と思い始める。

 そこでやっと気づく。


 目に映っている存在はなんだと。

 よくよく考えるまでもなくおかしい。

 こんなものが電車と並行して漂えるわけがない。

 そもそも半透明なのも信じがたい。


 女は慌て始める。

 ただ、女がいる場所は明るく他に人も大勢る電車の中なのだ。

 それに、風船のようなそれは特に女に視線を送るわけでもなく、ただフラフラと電車と並行してではあるが、漂っているだけなのだ。

 何か危害を加えて来る素振りも見せない。


 一瞬、女はスマホで写真でも撮ってやろうとか考えたが、流石にそれはやめておいた。

 それにより何か反応を起こされてでもしたら大変だと。

 そして、自分が疲れているせいだと思うことにして、それに目をやる。


 それで女はやっと気づく。


 半透明なのは、電車の窓に映りこんでいるからだと。

 その風船のようなものが本当にいた場所なのは……



ただようもの【完】

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