ほうじちゃ
女はほうじ茶は法事の時に飲むから、そういう名だと勝手に思っていた。
ただ、最近になってから、女は調べた結果そうじゃないことが分かった。
女は誰にも言わなくてよかった、そう思っていた。
よくよく考えれば、法事の席でほうじ茶が出たことはそれほどない。
実際の法事では普通に緑茶が用意されていた。
それに対して、なんに疑問を抱かずに、なんでほうじ茶じゃないんですか? と聞かなくてよかったと、過去の自分を女は褒める。
恥をかかなくてよかった。
そんなことを思っていた。
そんな女が法事に顔を出すことになった。
遠い親戚の法事で出なくてもいいような、そんな法事だった。
ただ、その日は女は何も用事がなかった。
だから、参加すると言ってしまった。
離れた別の県まで行き、古びた、本当に古びた寺まで行く。
かなり遠かったのでかなり早めについてしまった。
寺の受付に言うと、待機室に通される。
そこで出てきたのだ。
ほうじ茶が。
女は何となく嬉しくなる。
じきに親戚の、本当に遠い親戚の人たちが来る。
顔も合わせたことないような、そんな親戚の人たちだ。
とはいえ、その親戚たちも、女が参加してくれたことに、喜んでくれている。
女もこんなに喜んでくれるなら参加して良かったと思った。
つつがなく法事自体は終わる。
その後、食事でもという話になる。
女は少し考える。
ここまでかなり遠い。今から食事して帰ると家に着くころには真夜中だ。
明日も仕事があるし、もし電車を間違えでもしたら家に帰れるかどうかもわからない。
それほどここは遠い。
そこで女は、申し訳ないですが…… と食事を断り一人帰路に就く。
その際、お茶のペットボトルを渡される。
ラベルはないが茶色い飲み物が入っている。
なにかと聞くと、ほうじ茶だそうだ。
そして、女からしたら誰だかわからない年配のおじさんが言うのだ。
法事なんだから、これを飲んで行かないと、と。
なぜです? と女が聞き返すと、年配のおじさんは、法事なんだから、と笑って答えた。
女はそれ以上深く聞きはしなかった。
まだ温かいほうじ茶の入ったペットボトルを持って女は帰路に就く。
帰りの電車の中でほうじ茶を飲む。
そして、スマホで「ほうじ茶 法事」と再び検索する。
よくよく調べてみると法事で出すお茶として、定着していることもあるというのがわかった。
女は、間違いでもなかったのかと、考えを改める。
これはただそれだけの話だ。
ほうじちゃ【完】




