表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それなりに怖い話。  作者: 只野誠


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

186/677

よだれ

 女が自室にいると、上から何かがポツリと落ちてきた。

 それは何かの雫だった。


 驚いた女は上を見上げる。

 何もない。

 ただ天井があるだけだ。


 女に雫が落ちてきた場所は肩だったのだが、そこが少しだけ濡れている。

 女は雨漏りかと考えたが、ここはマンションだ。最上階でもない。

 雨漏りではなくあったとして水漏れだろう。


 それに少なくとも天井には上階で水漏れしている様子はない。


 とりあえず、女は肩についている雫をテッシュでふき取る。

 そして、何の気ないしそれの臭いを嗅ぐ。


 生臭い臭いがする。


 女は顔を顰める。

 こんな生臭い臭いの液体が降ってくるとなると、のうのうとはしてられない。

 滴り落ちた場所を探そうと女は座っていた椅子の上に立ち、天井をよく見る。


 だが、やはりそんな場所はない。

 少なくとも天井に水気を感じるような場所もないのだ。


 では、女の肩に滴り落ちた雫はなんなのか。

 女が椅子の上に立ったまま首を捻る。


 そうすると不意に部屋の電気が消える。

 消えるというか、落ちる。


 停電だ。


 女は驚くが慌てはしない。

 つけっぱなしのパソコンのデータが無事かどうか、そっちのほうに意識が行く。

 暗闇の中で女はどうするか考える。

 電気を使っていたのは作業中だったパソコンくらいのものだ。

 ブレーカーが落ちるほど電気を使っていたわけではない。

 恐らく一時的な物だ。

 

 女は冷静にそう判断する。

 その時だ。


 暗闇の中、まだ椅子の上に立ったままの女のすぐ後ろで、息遣いが聞こえる。

 天井近くのはずなのに、なぜか女の後ろで息遣いが聞こえてくるのだ。


 流石に女も驚き、慌ててしゃがみ椅子の上で縮こまる。

 そうすると、女に、上からポツリ、ポツリと何かが滴り落ちてくる。


 無論、女が上を見上げても何も見えない。

 停電で真っ暗だからでもあるが、それでもうっすらとは見える。

 少なくとも天井には何もいない。


 女はスマホを起動させてその明かりで天井を照らす。

 やはり、そこには何もいない。


 何もいない空間から、ポツリと何かが滴り落ちてくる。

 それは女の頬に落ちる。

 女はそれを拭い、臭いを嗅ぐ。


 生臭い。


 だが、女の真上には何もいないのだ。

 女が訳も分からずにいると、部屋の明かりがつく。

 停電は一時的な物だったようだ。

 明るくなった部屋で女は天井を見るが、やはり何もない。


 女は椅子の上に再び立ち、天井を触ってみるが水気一つない。

 女は何となく、この滴り落ちてきた雫は、涎なんだと思った。


 何者かの涎だったのだと。


 ただそれだけの話だ。




 

よだれ【完】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ