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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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あぁー

 あぁー、という声が聞こえる。

 あ、に濁点が付いたような、そんなうめき声のような声だ。


 それが夜遅い林の中から聞こえてくる。

 

 男は最初、猫でもいるのかと思った。

 ただ、猫にしては大分、野太い鳴き声だった。

 それでも、それ以外に思いつく動物などいない。

 林と言っても幅五メートルあればいい、川と道路を隔てるちょっとした林でしかない。

 そこからそんな声が聞こえてくるのだ。


 あぁー、あぁー、と。

 声の方を男が見るが何もいない。

 何度見てもいない。


 それでも、その鳴き声が聞こえてくる。

 あぁー、あぁー、と。


 男は違和感を感じる。

 鳴き声が上のほうから聞こえてくるのだ。

 ただこの林の木はそれほど背の高い木は生えていない。

 また猫が登れるような枝の太い木も生えてはいない。


 それでも男は、もし猫が木に登り降りれなくなっていたらかわいそうだ、そう思い上を確認する。


 男の目に留まったのは猫ではない。


 それは黒い丸だった。

 黒い球体だった。

 いや、夜だから黒く見えただけで、本当はどんな色だったか、それも不明だ。


 球体にはらんらんと輝く黄色い目とぱっくりとひび割れたような口があった。

 それと後は縄のような、長い首がどこからともなく伸びていた。

 人の顔のようななにか、そうとしか言い表せられないなにかが、ひび割れたような口から、あぁー、あぁー、と涎を垂らしながら鳴いていた。

 

 男はそれを見た瞬間に逃げるように走り出す。

 男がいくら走っても、あぁー、あぁー、という声は、男のすぐ近く、そして、少し上から聞こえてくる。

 声の方に男が視線を向けると、その顔のようななにかは、首をクネクネとくねらせながら、男についてきている。

 首はさっきの林のほうに伸びている。

 

 男はより一層走る。恐怖でもつれそうになる足をなんとか走らせ、林から離れる。


 ある程度離れたところで、あぁー、という声が聞こえなくなる。

 男が振り返ると、少し離れたところに、風船のように浮かんでいる球体を確認することができた。

 それは林からはある程度しか離れられない様だ。


 男は球体をしばらく見た後、息を整えて家に帰った。

 あの林を通る道はもう二度と使わない、と思いながら。




 

あぁー【完】

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