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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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まえをつける

 男は不思議な感覚を味わっていた。

 

 男は、今、仕事を終え、疲れ果てて午前前にどうにか家につけるかどうか、そんな状況だった。

 最寄りの駅に着き、電車を降り、独り暗い夜道を歩いていた時だ。

 ふと気が付くと、今まで一人だったはずなのに、いつの間にか絵に前を歩いている女性がいる。


 見た感じ若い女性だ。

 少し古臭い感じの服装で、丈の長いワンピースを着た、長い黒髪の、そんな女性が男の先を歩いている。


 男は少し気まずさを感じる。

 特に悪いことはしていないし、する気もないのだが、夜遅くに暗い夜道で先に女性が歩いていると、女性を怖がらせているのではないか、そんな気分に男はなっていた。

 そうしていると交差点につく。

 これでこの奇妙な気まずさも終わりを告げてくれる、男はそう思っていた。

 

 男の前の女性は今は信号で止まっていたが、男が近づく前に信号が変わり横断歩道を渡り出す。

 男もその横断歩道を渡ったほうが家まで近いのだが、ここはあえて渡らない。

 その方がこの気まずさから解放されると考えていたからだ。

 男は女が横断歩道を渡ったところで女から目を離す。

 そして、気が楽になったと、誰もいない歩道を歩く。

 男の視界には、車もない道路と誰もいない歩道。それと少し先に歩道橋が見えるくらいだ。


 男が歩いていると、歩道橋から誰かが降りてくるのが見える。

 こんな時間に誰だろう、と男が思っていると先ほど男の前を歩いていた女性が歩道橋から降りてきているのが見える。

 男は、道でも間違えたのか、そう思って今度は男が歩道橋の階段を登る。

 そして、歩道橋を渡り階段上から下を見た時だ。


 なぜか先ほどの女性がちょうど歩道橋の階段を降りて歩道を歩いているのが見えた。

 男はおかしなものを感じつつ、先ほど女性が歩道橋を渡っていたのは気のせいだったのか、と、歩道橋から反対側の歩道を見る。

 だが、その歩道には誰もいない。

 とりあえず、男は似た人だったと思うことにして、そのまま歩道橋を降りる。


 男の少し前には足音もなく歩くさっきの女性の姿がある。


 男は驚きつつも、ちょうど歩道橋を降りたところに自動販売機があったので、そこで休憩してから帰ろう、喉も乾いたことだし、と適当に飲み物を買いその場で封を切り呑みだす。

 実際に喉が渇いたこともあり、男は一気に飲み切る。

 そのまま空き缶をゴミ箱に捨てて、男は視線を帰り道の歩道へとむける。

 そこには少し前を歩くさっきの女性が見える。

 十から二十メートル先。

 そこを歩く姿がまだ見えるのだ。

 飲み物を買う前と同じ距離のところを歩いているのだ。

 おかしい、と男も思いつつも、そのまま男も足を進める。

 これでは自分が女性の後をつけているようではないか、そんな気分になっていた。


 男はしばらく女性の後をつけるようにして帰路に就く。


 途中で公園の公衆トイレを見つけたので、あまり使いたくはなかったが、男は公衆トイレに入り用を足した。

 これで流石に、あの女性ももういないだろう、とそう思い公衆トイレから出る。


 そして、歩道の先を見る。

 そこにいるのだ。

 公衆トイレに入る前に居た距離に先ほどの女性が。

 歩道を歩いているのだ。


 男は少し寒気を感じ、公園の入り口で立ち止まり、そのまま女性が歩いていくのを見送る。

 するとすぐにその女性は曲がり角を曲がって男の視界から消える。

 曲がり先も男の行先とは違う。

 男は一安心して歩きだす。


 そして、しばらくは普通の夜道が続く。男がまた別の横断歩道に差し掛かった時だ。

 横断歩道の先に、あの女性がいる。なぜか後ろ姿で横断歩道で止まっているのだ。


 男は流石に身を震わせる。

 いくら何でも異様だと。


 横断歩道の信号が青になる。

 けれども、男は横断歩道を進めない。

 そのかわりに女性が横断歩道を渡り出す。


 そこで初めて気づく。

 男が後ろ姿と思っていたそれは女性の正面だったのだ。

 女が少し俯いているので、髪の毛が傾いて顔が見えていなかっただけなのだと。

 更に丈の長いワンピースで足が隠れていたので、気づけなかっただけだったと。

 男はそれに安心して横断歩道を渡り出す。


 そこで気づく。

 なら、今まで、今まさにすれ違おうとしている女性はずっと自分を見ながら、自分の先を歩いていたのだと。

 そして、その女性とすれ違う寸前に、女性が男に声をかける。


 なんで後をつけて来るの? とくぐもった声で男に声をかけてきたのだ。


 男は恐怖で走り出す。

 がむしゃらに自分のマンションに逃げ帰り、震える手で部屋の鍵を開けドアを閉じ鍵をかける。


 あれは何だったのだろうか、男には理解できない。

 ただしばらくは駅から徒歩での帰宅はやめようと心に誓った。




 

まえをつける【完】

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