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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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ちいさなかお

 蒸し暑い夏の夜。

 少女は窓を開けて寝ていた。

 

 窓から月明かりと生暖かい夜風が入ってくる。


 月明かりで窓の外の景色が見える。


 松の木だ。

 庭の松の木が見える。


 刺々しい木だ。

 ただ、その木になる小さな松ぼっくりは好きだ。


 蒸し暑く眠れない中、少女はそんなことを考えていた。


 少し遠くの田んぼから蛙の鳴き声も聞こえてくる。

 夏の夜の虫の鳴き声も聞こえてくる。


 それらを聞きながら少女は瞼を閉じた。


 しばらくして、周りが妙に静かなことに少女は気づく。

 先ほどまであんなにうるさかった蛙も虫の鳴き声も、今は何も聞こえない。


 窓から生暖かい風が吹き込んでくる。

 少女は目を開けた。


 月明かりにしては明るい。

 明るい、というと少し語弊がある。

 月明かりだけにしては光量が少し多い、その程度で暗闇は暗闇だ。


 基本的には暗く黒く、濃い青に世界は閉ざされている。

 そんな世界を淡く、本当に淡く照らす弱々しい光が見えたのだ。


 少女はその光の方を、開けっ放しの窓の方を見る。

 そして、すぐにゾッとする。


 そこには、小さな顔がたくさんあった。

 丸だけで構成される様な、単純な顔の様なもの。

 白く半透明なクラゲのような顔。

 それが無数に浮かんでいた。

 まさしくクラゲのように漂っていた。

 無数に漂っていた。


 少女が驚きすぎて、そのまま固まっていると、その小さな顔は風に流されるように飛ばされていった。

 そのうちのいくつかが風乗って少女の部屋に入ってくる。


 円のみで構成されるそれは、少女の方に目の様な物を向ける。

 ただ自分では動けないのか、ふよふよと少女の部屋を漂う。


 そして、それは部屋の壁にぶつかりシャボン玉のようにはじけて消えた。

 少女は急いで窓の戸を閉めた。

 外にはまだ小さい顔が大量に浮かんでいるし、そのすべてが少女のことを見ていた。


 それがなんだったのか、少女にはわからない。

 夢であったのかもしれない。

 ただ、少女が目覚めたとき、部屋の窓は、少女が閉めた様にガラス戸だけが閉められていた。

 

 それだけは事実だ。




ちいさなかお【完】

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