だれかいる
少年の家には昔から誰かがいる。
その姿を見たことはない。
少年の父も、母も、祖父も祖母も、その誰かを見たことはない。
だけれど、少年の家にはまだ会ったこともない誰かが確実にいる。
他に誰もいないときにドアが開く音がする、階段を登る音がする、廊下を歩く音がする。
確認しに行くが、誰もいない。
少年だけではない。家族の全員が体験していることだ。
誰かいるのだが、その姿を絶対見ることはない。
ただ稀に鏡に映ることがある。
さっと視界の端に黒い影が見えることがある。
半開きの扉の隙間から覗いてくる誰かがいる。
それが誰なのか、誰も知らない。
自称霊感のある人物をその家に連れて行けば、その真偽がわかる。
本物の人達はよくわからない、良い物なのか悪い物なのか、それすらわからないが何者かがいると言う。
偽物の人は大体、良くない者だと言う。稀に先祖の霊だ、なんていう人もいる。
何もいない、とそういう者もいる。
まあ、その真偽は定かではないが。
少なくとも少年はそう思っていたようだ。
この家に居るものはそう言った物ではない。
では、なにか?
そう問われれても誰も何もわからない。
この家に隠れ住んでいる者はそう言った存在だ。
少年はそう、何となくだが、そう考えていた。
ただ少年の家は古い家だ。
とても古い家だ。
建て直しをしなければならない時期が着た。
少年の家族は、今まで住んでいた家を建て替えることにした。
まあ、仕方のないことだ。
雨漏りもするような古家にいつまでも住んでられない。
だが、少年の家の解体はとても手間取ったと言う。
機材が急に故障するし、誰かを解体中の家の中に見た、などの話が相次いだ。
お祓いもしてもらったが、なにも効果はない。
それでも家は解体され更地となった。
そこに新しい家が建てられる。
新しい家では、そのだれかを見ることはなくなった。
あれが誰だったのか、やはり誰も知らない。
だれかいる【完】




