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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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おとなりさん

 女はとあるアパートに住んでいた。

 築年数も結構いっているような、安いアパートだ。


 ただ女が務めている会社からも近く家賃も安い。

 何より女には引っ越す余裕もない。


 安アパートに不満は色々あるが、女には我慢するしかなかった。


 その不満の一つが、深夜の隣の部屋から聞こえてくる会話だ。

 何を言っているのかわからないが、複数人で何かを話している。

 大体深夜の一時頃から始まり三時頃まで続く。


 絶えず誰かが何かを喋っている。

 それほど大きい声ではないが、一度気になりだすと眠れなくなる、そんな話声が聞こえてくる。

 女からしたらたまったものではない。


 女はよくも毎日飽きずに話していられるな、どんな事話しているんだと一度、会話を盗み聞きしようとして、壁に耳を付けて行こうとしたこともある。

 だが、上手く聞き取れなかった。

 ただ単語を言っているようなでたらめな言葉ではなく、何かしらの会話なのだがそれを聞き取ることはできなかった。


 それ以前に女は隣にどんな人間が住んでいるか、それすら知らない。

 もう数年の間、このアパートに住んでいるが、隣の部屋の住人と一度も顔を合わせたことがない。


 あまり大きな声ではなかったが、あまりに毎日続く様なので、女は大家に相談することにした。

 相談すると大家は驚いた顔を見せる。


 そうして、大家は調べるから少し待ってほしい、とそう言った。

 それからニ、三日たって、偶然隣の住人と女は顔を合わす機会があった。

 若い男だった。

 男は女に軽く会釈をして、自分の部屋へと入っていった。


 初めてお隣さんの顔を見て、女は驚きはした。

 けれど、女には直接文句を言う勇気はなかった。

 

 その夜からしばらくは真夜中のヒソヒソ声は聞こえて来なくなった。

 大家さんが注意してくれたのだと女は思って大家さんに感謝した。


 が、それからしばらくしてまた真夜中にヒソヒソ声が聞こえるようになった。


 女が大家さんに文句を言うと、大家さんは奇妙な表情を見せる。

 そして、女に告げる。

 元々女の住んでいる隣の部屋はずっと空き部屋だった。

 女の前の住人も同じようなことを言っていたので、試しに知り合いに数日の間住んでもらったが特に異常はなかったし、部屋が誰かに使われた形跡もなかった、と言う話だ。


 女は驚いた。

 そして、隣の部屋を見せてもらうことになった。

 確かに空き部屋になっていて、ほとんど使われた様子がない。

 つい最近、少しだけ使われた様子があるだけだ。

 家具なども一切ないし、それらが置かれていた形跡すらない。


 女は大家になんで空き部屋なんですか、と聞くと、大家は少し困った顔を見せた。

 なぜだかこの部屋の住人は逃げるようにすぐ出て行ってしまうので、と言いづらそうに言った。

 事故物件などではないのだが、アパート全体の悪評が広まっても嫌なので、この部屋は空き部屋にしているとのことだ。


 その後、女は耳栓を買った。

 引っ越したかったがそこまで余裕がなかったからだ。


 とりあえず、それで真夜中のヒソヒソ声は聞こえなくはなった。




おとなりさん【完】

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