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それなりに怖い話。  作者: 只野誠


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でんしゃについてくるおんな

 男は少しの残業の後、帰宅する途中で起きた出来事だ。

 その時あったことは余りにも奇想天外で夢だったのではないか、後から思い出してもそう思える。


 電車が出発しようとしているぎりぎりに男は電車に駆け込んだ。

 男が乗り込んだ電車は進行方向から見て最後尾の車両だった。


 最後に乗り込んだので、乗車口のドア付近に男は立っていた。

 それほど混んではいない。

 ただ座れるほど空いてもいない。

 そんな車内だった。


 男は仕事で疲れた頭で、乗車口のドアの窓から外を見る。

 外と言っても今、男が乗っているのは地下鉄だ。

 最初こそ、明るい駅のホームが見えていたが、すぐに真っ暗な何も見えない景色が広がっているだけだ。


 それでも男は手持ちぶたさでその真っ暗闇を見ていた。

 不意に視界に何かが見える。


 人だ。

 女の人だ。

 スーツ姿の女の人が、早歩きで歩いている。


 だが、男は驚きと恐怖で凍り付く。

 

 その女が居たのが車外、電車の外だからだ。


 女は乗車口の窓から今も見える。

 早歩きで電車についてきているのだ。


 既に電車は駅から出発してかなりの速度で走っている。

 それにその女は早歩きで付いてきているのだ。


 男は眼を丸くして、それを見ていた。

 いや、見入っていた。


 男が見入っていると、女が男に気づく。

 女が笑顔を男に向ける。

 男は凍り付く。

 両目の黒目が別々の方向に向いていてどこを見ているかもわからない。

 なのに、しっかりと見られていると、女と目が合っていると確信を持って男には思えた。


 男は理解が出来ない。

 ただただ理解が出来ない。


 女は今も早歩きで電車の外を付いてくる。いや、徐々に電車に追いつく勢いで近づいてきている。

 男は不意にこの電車に乗る気なのか、と思い当たる。


 それを思いついた男が恐怖で顔を歪めると、電車の外の女はニヤリと笑う。


 その瞬間、肩を掴まれる、驚いて男が振り返ると、そこには会社の後輩がいた。

 男が余りにも驚いていたので、茫然としたように男を見ていた。


 少しの間があって、会社の後輩は今帰りですか? と男に尋ねて来た。

 男は頷いて、もう一度乗車口の窓から外を見る。

 もう女はいない。


 男は後輩を連れて一つ前の車両に移動する。


 男が一つ前の車両に着いたが、後輩は最後尾の車両から移動しようとしない。

 後輩は、どうしたんですか? と聞いてくるばかりだ。

 男が良いから早く、と強引に移動させようとすると、後輩は男の手を強く振り払った。

 そして、急に無表情になった。


 そして、電車が次の駅に着く。


 男は後輩もなんだか怖くなり逃げるように、電車から降りた。

 後輩は電車の最後尾の車両の窓から無表情のまま男を見ていた。

 その後、男はその日はもう電車に乗る気になれなかったのでにタクシーで自宅へと帰った。


 次の日、男が後輩に昨日のことを聞くと、後輩は昨日は帰りに会ってないし、用がると定時で帰ったじゃないですか、と頬けた顔でそう言った。


 男が、今思い返してもまるで訳が分からない、まるで悪夢のような話だ。


 


でんしゃについてくるおんな【完】

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