敵視
夕食を済ませたストラは宿へと戻り、魔法で身体に付いた汚れを落とすとベッドに寝転がる。
窓を閉め切った部屋の中にはランタンの光だけがゆらゆらと揺らめいており、頭の中を整理することに集中できた。
(今日いろいろと見て回って、この世界は文明が高度に発展してるってことが分かった。それも元の世界とは比べ物にならないほど……。こんな文明同士が戦争を起こしているだなんて、想像もつかないわね……。一体どれだけ激しいものなのかしら)
ストラがこの町に入るときにチラッと見た門番の装備からも、この世界とあちらの世界の戦いの水準の違いが見て取れた。
この世界の門番は銀色にきらめく甲冑を全身に身に着け、殺傷性の高そうな鋭い槍を持ち合わせていた。
一方元の世界の門番はせいぜい金属の胸当てを装備している程度で、戦場の最前線に立つ者たちですらあの水準の防具を装備している者は少ない。
脳裏に焼き付いたあの天使の防具レベルでなければ、元の世界の歩兵がこの世界の歩兵に戦いで勝つことは難しいだろう。
なんてことを考えていたストラはいつの間にか眠りについてしまっていた……。
*
夜の暗闇の中、町を多くの兵が巡回し、立ち並ぶ建物の戸を全て叩いて行く。
住民は眠気眼を擦りながら、深夜の訪問客に憤りを覚えながら戸を開けると、そこに立つ物々しい様子の兵に驚き跪く。
「この者を探している。付近で目撃されたと聞いたが」
住民は顔を上げ兵が提示してきた紙に描かれた顔を見る。
そこには魔女の帽子をかぶった女の顔が描かれていた。
「私は存じ上げません、兵士様。どうぞ中もお調べくださいませ」
そう言って住民は兵を家に上げてすべての明かりを灯す。
兵は土足で家に上がり込むと、家の中を隅々まで探し回って、目的の人物が隠れていないことを確認すると何も言わずに家を後にし、次の建物の戸を叩く。
住民は絶対に兵に従わなければならないのだが、中には怒りに身を任せて抵抗しようとしてしまう者もいた。
「この者を探している。何か知らないか?」
「知るか! こんな夜中に……さっさと帰んな!」
「われらに楯突くのか? おい! 連れていけ!」
「な、なんだ!? 俺は何も知らねぇ! 本当だ!」
――疑わしき者は罰する。
それがこの町のルールだった。
素直に兵の意向に従わなかった者は連れ去られて牢屋に放り込まれ、その身の潔白が証明されるまで永遠に牢から出られることはない。
そうしてこの町の平穏は保たれる。
その手は住民の家のみならず、飲食店や市場、停泊中の商人の荷車にまで向けられた。
そしてもちろん宿にも――。
宿の一室一室の戸が叩かれる。
何も知らない客ですら同じ目にあわされるというのだから、迷惑なことこの上ないのだが、町の人々は揃って「知らないほうが悪い」と口にし、誰もそのものを擁護しようとはしない。
何故なら擁護したが最後、疑わしき者として兵に捕らえられるからだ。
ついにストラの下にも兵がやってくる。
ドンドンドンという大きな戸を叩く音が静かに眠っていたストラの目を覚まさせる。
彼女はゆっくりと起き上がり戸の方へ向かうと、突如嫌な予感に襲われる――。
慌てて装備を整えてゆっくりと戸を開くと――兵はいきなり切りかかってきた。
「いたぞ! 捕らえろ! 最悪殺しても構わん!」
「いきなりご挨拶が過ぎるっての!」
ストラはあらかじめ開けて置いた窓から飛びだして地上に降り立つ。
すると目の前にはあちこちから声を聞いて集まってきた兵が彼女を取り囲んでいた。
「いたぞ! 魔法を使用する女だ! 敵国の者を取り逃がすな!」
兵たちは武器を構えて一斉に襲い掛かってくる。
「こうなったら弁明しても無駄なのかも……」
ストラは話し合いでの解決は無謀だと判断し、切りかかる刃を魔力壁で受け止め弾き飛ばす。
その魔法で疑いが確信に変わったような顔をした兵たちは、小さな石ころのようなものを投げつけて来る。
それは地面について少し転がった後、いきなり爆発し、地面の石畳みを吹き飛ばす。
咄嗟に魔力壁で身体を防御していたストラは無傷だったものの、次々と投げ込まれるそれに状況が悪すぎると判断した彼女は法器を生み出して空へと逃げる。
「逃げたぞ! 撃ち落とせ!」
次の瞬間、火薬が破裂したような音と共にストラの顔の横を弾丸が通り過ぎる。
ヒュンッという音を耳元で聞いた彼女の体中に鳥肌が立つ。
「危なっ! もう! しつこいなぁ! 黒霧よ覆い隠せ!」
空の闇にさらに黒い霧が現れ、空を飛ぶ魔女の姿を覆い隠す。
町の上を覆う霧の中を兵たちはひたすらに撃ち回すもその攻撃が魔女を捉えることは無かった。
「撃ち方やめ! ――チッ、逃げられたか……」
兵たちはすぐに指導者の下に集うと隊列を成して城へと戻っていった。
その道中、日中ストラと関わった商人や飲食店員、宿屋の店員を捕らえて回り、尋問をするために牢屋へと放り込んだ。
その様子を路地中から見つからないように眺めている者の姿があった。
「あのババァ、クソ兵士に追われてたのか……? じゃあ……いいやつだったのか……」
「お兄ちゃん……どうしたの?」
「あっ! シーッ! 寝てなきゃダメだろ!」
「お兄ちゃんがいないと眠れないよ……」
「分かったよ。一緒に寝ような……」
その者は魔女が消え去った空を見上げると、小さな女の子を連れて路地の奥に作ったボロボロの寝床へと戻っていった。
*
ストラは月明かりに照らされながら、東の方へ翔けていた。
(よくよく考えたら魔法を使ってるのを見たらオリエンタレムの者だって勘違いされるわよね……。どうして気づかなかったのかなぁ……。もったいないことしたわぁ……)
メリディウムとオリエンタレムは戦争をしている中、突如として旅人が魔法を使い出したなんて通報があれば誰しもがオリエンタレムの者が町中に入り込んできたと勘違いするだろう。
ストラは改めてメリディウムの町を振り返ってみると、あの町で魔法を使用している者は誰一人として見かけなかった。
つまり彼らには魔法が使えないのであろう。
そんな中でつい魔法を使ってしまったことを反省していると、目下に大きな町が見えて来る。
「これがオリエンタレムの町かぁ……」
そこに広がっているのはメリディウムの町とは雰囲気も様相も何もかも違うメルヘンな町だった――。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
平和とはかくも短きものなのか……
というわけで彼女の平穏な暮らしは一瞬で幕を閉じ、すぐに新たな街へと旅立つことになりました。
次の町では平穏に過ごせることを願いましょう。
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拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。




