贖罪
聞き慣れない大陸の名前にストラは混乱する。
彼女が知っている大陸の名前は”フェリステア”、”ゴスミア”、”オブスカーラ”、”ルーメン”、”ディムランズ”の五つであり、”ヴィリジアニ”などという大陸の名前は彼女の記憶にはない。
そこでストラは自分が知っている大陸の名前について、何か知っているかをメクリカに問いかける。
「ねぇメクリカ。この世界にフェリステア、ゴスミア、オブスカーラ、ルーメン、ディムランズっていう大陸はある?」
「……? どれも知らない名前ね。もしかしてストラって異世界人なの……?」
「異世界人……?」
メクリカ曰く、この世界では魔法の研究の一つとして召喚魔法の研究が行われている。
たまに起きる事故が原因で異世界から召喚されてしまった人のことを”異世界人”と呼んでいる。
異世界人は通常であればすぐに元の世界に戻されるのだが、研究機関以外の場所で召喚魔法を行使した者が起こした事故により召喚された異世界人は、元の世界に戻されることなくこの世界に留まり続けることになってしまう。
それは時間が経つことにより異世界間の繋がりが絶ち切れてしまい、再び同じ世界とつなげることはできなくなってしまうからである。
それを聞いたストラは信じられないといった表情を浮かべる。
彼女の話が全て本当であるなら、ストラは異世界に召喚されてしまったことになる。
「ちょっと待っててね……。え~っと地図ってどこやったっけ……?」
メクリカはそう言うと地図を探しに隣の部屋へと向かっていった。
途中でドタドタと何かが倒れ「いった~!」という悲鳴がストラの耳に届く。
しばらくしてぐるぐる巻きにされた大きな地図を持ってメクリカが部屋に戻ってくる。
「……なんか途中、大丈夫だった?」
「え? あぁ本がちょっとね。あはは……」
そう苦笑いしながら広げられ見せられた地図はストラの全く見覚えのない形の大陸が四つ描かれたものだった。
「どう? 見覚えある?」
「うん、ないね。ってことは……」
「やっぱり、ストラは異世界人なんだね。だから絶妙に話がかみ合わなかったんだ」
「変だと思った。私たちの世界で薬草を育てようとするのは無理があったし、何よりそんな安全は確保できないからね……」
ストラが自分の世界について少し触れると、メクリカは興味があるように目を輝かせる。
異世界というのはそれほどまでに未知なるものなのだろう。
人の未知なるものへの探求心というものは、どこの世界へ行っても変わらないのだろう。
「ねぇ、よかったらストラの世界について教えてよ。かわりにこの世界のことについて教えるからさ」
「別に減るものでもないし、構わないよ。じゃあ……どこから話したものか……」
ストラは自分の崩壊した世界について話し始めた。
(私のことも……包み隠さず話すべきだよね……)
「まずは私たちの世界は”終わりの使徒”っていう異形の化け物が世界中に沢山いて、そいつは目につくものすべてに襲い掛かるの。エンデって呼ぶことが多いんだけど、そのエンデはいろんな姿かたちをしているの。大型の人間みたいな化け物もいれば、虫が変に発達したみたいな化け物、中には小さな鳥が隕石みたいに降ってくるなんてエンデもいるの」
「なんか……私たちの世界にも突然変異細胞体っていう化け物がいるんだけど、それとはまた違う化け物なのかな? お話を聞いてる限りだとすごく似てるんだけど、世界中に沢山いるってわけじゃないから……」
「まあ多分それが沢山いるって想像で大丈夫。それでそいつらのせいで土地は荒れ果て、人々もその数を減らしていったの。そんな中私は一人の小さな女の子に出会った――」
そこからストラはリアニとの出会いから別れまでを自分の思いや計画を包み隠さずに話した。
その話をメクリカは相槌を打つのみで黙って聞いていた。
語っている時は何ともなかったが、語り終えた後に思い返してみれば、後悔していることが沢山あった。
このお話の中で何よりも許せないのは自分自身なのだ。
「そんなことをしていたんだね……うん、ストラの気持ちも少しわかる気がする」
「いや、無理に同情してくれなくても……自分が一番悪いってのはわかってるから」
「ならこう考えよ? 向こうの世界のストラはもう死んでしまった。で、こちらの世界にストラは新しく生を受けたの。そして前世の罪を一つ一つ覚えている。だから今世では自分と他の人が同じ目に合わないように、同じ過ちをしないように働きかけていくの」
「でもそれじゃ……罪は償えない……」
「それはそうだよ。一生背負っていかなきゃいけないのが罪というものなんだから。絶対に消えることは無いし、死んでしまった後でも一生言及されるの。でも過去を変えることはできない。だから未来を変えていくことで、生まれてしまう罪を少しでも減らしていくの。それが罪を背負ってしまった者ができる唯一の生き方よ」
「生まれる罪を……減らす……」
「罪を背負った後のことは当事者にしか分からない。だからあなたが伝えていくの。どんな命も尊重されるべきだけど、罪人はその土台に立つことは一生できないって」
「随分極端な考え方ね……でも、ありがとう。あなたの言う通りだわ」
メクリカは自分の考えを理解してもらえたことに喜びを感じていた。
あくまで数多ある生き方の一つに過ぎないが、何もしないで生きるよりかはよっぽどマシな物だろう。
「メクリカ、一つお願いをしてもいい?」
「言ってみて」
「もし私がもう一度道を踏み外そうとしていたら……あなたの手で私をぶん殴ってでも止めてほしいの」
「……ずいぶんなお願いね。でも……わかったわ。せっかく助けたよしみですもの。最後まで面倒見てあげようじゃない」
「……ありがとう。本当にありがとう……」
今度はメクリカがこの世界について語る番となった。
再び地図を広げて四つの大陸を順に説明していく。
「まずこの北西にあるのがチタニアム。一年中大量の雪に覆われた真っ白な大陸だよ。噂によれば、ここでは賢者の集いっていう組織が秘密の実験をしているそうよ」
「……え? ちょっと待って。賢者の集いって言った?」
「うん。それがどうしたの?」
ストラはその名前についてある程度の知識があった。
彼女の弟子のカリスの父親はその組織に所属していたはずだ。
それゆえに研究成果を狙われて命を落としたとも聞いた。
「それ、私の世界にもあるって聞いたことある」
「ほんと!? じゃあ噂はほんとだったんだ……」
「どういう噂?」
「賢者の集いは異世界にまで有志を集い、世界の違いによる魔法の影響の違いを研究してるだとかなんとか……」
「な、なるほど……ごめんね遮っちゃって」
「ううん、大丈夫。で次のチタニアムの南にあるのがヴィリジアニ。私たちが今いるところね。ここは緑豊かな土地で、一番人が住みやすい大陸って言われてる。でその東にあるのがカボニブラっていうドラゴンやワイバーンなんかが住み着いてる危険な大陸で、中央には大きな火山があるよ」
「ワイバーン? ドラゴンと何が違うの?」
「大した違いは無いんだけど、細かく言うと足の数が違ったり、体の大きさや知能も違う。まあでもどっちも危険なのに越したことは無いから、近づくのはおすすめしないかな」
そうしてメクリカは最後の中央にある大陸に指を差す。
「そしてここがオブシディアニス。一面真っ黒な岩肌の大陸で、魔物が住み着いてるとか。人はあまり近づかないね」
「魔物? さっき言ってた突然変異細胞体とは違うの?」
「突然変異細胞体は人が生み出した実験の失敗作。魔物は人みたいに繁殖して増える化け物の事だね。魔物の大半は悪魔が多いかな」
「なるほどね。大体つかめてきたわ」
「ならよかった。じゃあ次はヴィリジアニについて説明するね――」
そうしてメクリカは続けて人が住まう大陸ヴィリジアニについて語り始めた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
まさかまさかの別世界。これにはきっと消し飛ばしたシエル様も腰を抜かしていることでしょう(意識不明の重体だけど)
さてさて次回はさらにこの世界について踏み込んでいきますのでお楽しみに!
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拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。




