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覚醒

 ――断片的な記憶がよみがえる。

 その者は数多くの人を騙し、傷つけ、過ちを犯した。

 力を求めるがあまり、そして愛を求めるがあまり、悪魔と契約し、さらに多くの者を傷つけ、最後には温かな光に包まれながら消えていった。


 ――そう、私は消滅したはずだった。


   *


 その魔女は目を覚ます。

 どこかの小屋の中で目を覚ました魔女は体を起こすと、全身に激しい痛みを感じ、そのまま倒れるようにまた横になる。

 起き上がることができないため、なんとか頭を動かして周囲の状況を探る。

 小さなベッドに寝かしつけられていた魔女はかまどの薪がはじける音を耳にする。

 その音と共に誰かの穏やかな寝息も耳に入ってくる。


 痛みを我慢しどうにか起き上がろうとするも、全身に走る激痛はそれを許してくれず、バランスを崩した魔女はそのままベッドから転げ落ちてしまった。

 その大きな落下音で目を覚ましたその人は魔女の下へと駆け寄ってくる。

 その女性は魔女と同じぐらいの身長で、髪と瞳の色は黒く赤渕の眼鏡をかけており、彼女から香るほんのりとした薬草の匂いが少し鼻をつんざく。

 黒い外套はあちこちに小さな汚れや破れがあり、長く使用しているのが想像できる。

 「目を覚ましたのね! よかった、今起こしてあげるからね」

 「あ……あなたは……?」

 「ん? わたし? 私は……そうね、私の名前はメクリカよ。あなたのお名前は?」

 「わ……たし……? わたしは……」

 急に魔女は頭を抑える。

 頭に電流を流されたような痛みを感じ、咄嗟に手を額に当てる。

 ほんの一瞬の痛みだったのにも関わらず、なぜか酷くその痛みに恐怖を感じた。

 正確には魔女は本名を名乗ることに恐怖を感じていたのである。

 そこで彼女は語り慣れた偽りの名前を口にする――。


 「私は――ストラ……よ」


   *


 ストラはメクリカに介抱されながら体の痛みが消えるのを待った。

 その間ストラはメクリカに迷惑をかけっぱなしだと申し訳なさを感じて「ごめんなさい」と謝っていたがメクリアはこう言った。

 「困っている人を助けてあげるのは当然じゃない? こんな世界だからこそ私たちは助け合って生きていくべきなの。見捨てた時点でそれはあの化け物と何ら変わりないわ」

 「でもこんな世界だからこそ……自分しか見えなくなるんじゃないの……?」

 「考え自体は分からないでもないけど……。私にはそんなことできない。私はもう……目の前で命が失われる様を見たくないの……」

 メクリカの表情は神妙な表情を浮かべてそう語った。

 ”目の前で命が失われる様”という言葉を聞いた時、ストラの胸の奥にチクリと痛みが走る。


 以前の自分はそれを嬉々として行っていたことがある。

 それはこんな世界であってもなくても決して許されることではない。

 たとえ自分がどのような状況に立たされたとしても、罪のない命を奪う行為というのは他人も自分も酷く傷つける悲しい行いなのだ。

 そしてその罪を償う方法はどこにもない。

 一生を掛けても死人に報いることはできないのだ。

 唯一できる行いは残された者たちにどう報いるのか、そしてその行いから自分の態度をどう改めていくのかということ。

 背負った罪という重い荷物を下ろすことは誰にも許されない――。


 そんなことを考えていたストラはハッと我に返る。

 するとメクリカがストラの顔を覗き込んでおり、心配そうに見つめていた。

 「大丈夫? まだ体は痛む?」

 「え、えぇ。大丈夫。特に動こうとしなければ痛むこともないわ」

 「そう。それなら絶対に安静にしていること。身の回りのことは私がお世話してあげるから、今は体を休めることに注力しましょう」

 「……ありがとう」


   *


 ストラがメクリカに身の回りの世話をされながら体を休める生活を送り始めて、一週間が経過しようとしていた。

 相変わらず体を動かそうとすると、激痛が全身を駆け回るため、身動き一つとれない状況のままだった。

 メクリカが調理してくれる料理には様々な薬草が混ぜられていた。 

 植物すら育たない枯れた土地で、数種類もの薬草を手にできるのは珍しいと思い、どこで手に入れているのかと聞いたところ、彼女は自らその薬草を育てていると話した。

 薬草の管理は温度や湿度、日照時間など条件が煩雑であるため、魔法を使って成長を早めてしまうことが多い。

 しかしそうすると魔力や魔法力が混じり、薬草自体の効果が薄れてしまうのだが、彼女はなんと魔法が使えないと話した。

 つまり彼女はその煩雑な条件を全て徹底的に管理していることになる。

 ストラはその技術力の高さに驚かされた。

 それは自分でもなし得なかった境地の御業であるためだ。

 ストラは体が自由に動くようになったら、ぜひ教えを乞いたいと心の底から思った。


 そうした生活を送る中で、ストラには一点非常に気になっていることがあった。

 それは料理の味付けに関してだ。

 「ねぇメクリア。この味付け誰に習ったの?」

 「え? 誰に習ったも何も独学よ? そもそも私はしばらく一人で過ごしてきたのだし……」

 「そ、そう。わかったわ……」

 「もしかして、口に合わなかった……?」

 「そ、そういうことじゃない! 料理はいつもすごくおいしいよ」

 「そう? ならよかったけど……」

 彼女が作る料理の味は、目の前で亡くなった友人のメルティスの料理を強く想起させるほど、全く同じと言っても過言ではなかった。

 ストラが彼女と過ごした期間はほんのわずかではあったが、そこで小さな女の子と食べたあの味はミルクヴァットの町のどのお店よりもおいしいものだった。

 あの味は確かにストラの舌がしっかりと覚えており、それを間違えることは決してあり得ないと彼女は自負していた。

 その味を再び味わうことになるとは想像もしていなかったが、メクリカはメルティスと容姿も声も全くの別人であるため、ストラが感じているこの現象は本当に偶然の出来事ということになるのだが……。

 (そんなことがあり得るの……? 別人の料理の味が全く同じになるなんて……。それともこれは私のただの思い込みなのかしら……?)

 ストラは彼女の正体について酷く訝しむことになった。


 そんな彼女の正体に迫るため、ストラはいろんなことを聞いてみることにした。

 「メクリカはずっと一人で暮らしていたの?」

 「えぇ。もう二年ぐらいかしら。その前は子供と一緒に暮らしていたのだけど……」

 「その子は……?」

 「……亡くなったわ。あれは私のせいなの」

 「ごめんなさい。辛いことを聞いてしまったみたいね」

 「いいえ、大丈夫よ……」

 ストラの中の疑念がさらに強くなる。

 自分が消滅させられてから目覚めるまでにどれだけの時間を費やしたのかは分からないため、正確な時間は不明だが、それほど時間が経っていないと仮定した場合は、彼女がメルティスと別れることになってからの期間と大まかに一致する。

 ただそれだけではまだ彼女がメルティスであるということは確定しない。

 あくまでも仮定の話である上に、嘘をついている可能性も否定できないためだ。


 そこでストラは別の角度から切り込んだ質問を投げかけてみると同時にかまをかけてみる。

 「ねぇメルティス。そういえば、私たちは今なんていう大陸にいるの?」

 「メルティス……? ストラ、私を誰かと勘違いしているのね? だから私の身の上の話を突然聞き出してきたりしていたのね」

 「あっ……。ご、ごめんなさい」

 「謝らなくても大丈夫よ。きっと起きたばかりでまだ混乱しているのね」

 そして彼女は質問に答える。

 そこでストラは改めて自分の身に起きた問題について考えることとなる。


 「――ここはヴィリジアニ大陸よ」

ここまでお読みいただきありがとうございました。


一旦リアニ視点の話が区切りを迎えたため、蘇りし魔女視点のお話が始まりました。

一体消えたはずの魔女がなぜ生きているのか? そしてヴィリジアニ大陸とはいったいどこなのか? 目の前の女性の正体とは? 様々な謎が飛び出してまいりました。

いろんな考えあると思いますのでじっくり考えながら、次回のお話をお楽しみにしていてください!


ブックマークのご登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどりますので、ぜひぜひお願いいたします!!

また誤字や脱字等ございましたご報告のほどお願いいたします。


拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。

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