大敗
ミシェルはどこか浮遊感を覚えながら、温かな光に包まれて目を覚ます。
目下には巨大な渦潮が広がり、轟轟たる波の音が響き渡っていた。
「起きた? 起きたね! 自分で飛べる?」
「は、はい! 放してもらって大丈夫です」
ミシェルを抱えていたラヴィエルはそう言われると彼女を放し、目下の渦潮をにらみつける。
エスハイエルに教えを乞うたミシェルは空間魔法力を使い切ることなく魔法を使い続ける術を用い、空中に浮遊する。
そこで自分の身に何があったのかを整理し、現状を把握する。
彼女たちは”大罪の悪魔”の魔法を止めようとして刺激してしまったがため、彼らの魔法の罠にかかり大陸ごと消す魔法を喰らってしまった。
ラヴィエルに抱えられていたことから、恐らく彼女がミシェルを助け出してくれたのだろう。
しかし周りを見渡してもリアニとカリスの姿が見当たらない。
そこでミシェルは嫌な汗をかき始め、恐る恐るラヴィエルに二人の所在を聞いてみる。
「ら、ラヴィエル様……。リアニちゃんとカリスさんは……?」
「ごめん……。君を助け出すのがやっとだった……」
「そんな……! じゃあ二人は……」
「……まだあの渦潮の中よ」
衝動的にミシェルは渦潮へ突っ込んでいこうとする。
しかしラヴィエルは彼女の腕を取ってそれを阻止した。
「離してください! 二人を助けなきゃ!」
「冷静になりなさい、ミシェル! 今あなたがあそこに入ったらあなたも助からなくなる!」
「でも……!」
「自殺行為よ! 絶対にやめなさい!」
「……いや。いやぁ……そんな……ふたりが……」
ラヴィエルは泣き出したミシェルの体をぎゅっと抱きしめてやる。
その腕の中で彼女は渦潮の音にも勝る大声を上げて涙をこぼし続けた。
ラヴィエルは両腕にしっかりとミシェルを抱きながら、意識を天界の方へと向け熾天使を呼び出す。
「セラフュエル、聞こえる? 今すぐにあなたの力を借りたいの」
「ラヴィエルか。焦りを感じるな、何があった」
ラヴィエルはこれまでに起こったことを全てセラフュエルに話し、現在の問題の解決策を彼に求めた。
「気を悪くしたら謝ろう。その状況下で彼女たちが生きているとは到底思えん」
「でもかすかに彼女たちの力がまだ生きているのを感じるの。今すぐ助け出せれば、まだ間に合うかもしれない。お願いセラフュエル。彼女たちを、失いたくはないの!」
セラフュエルはそこで静かに悩むと、おもむろに口を開いた。
「わかった。すぐにそちらに向かおう。その間にできるだけ彼女たちの正確な位置を把握するように努めてくれ」
「わかった。ありがとう、セラフュエル」
念話がそこで切れると、ラヴィエルは次に渦潮の中から確かに感じる彼女たちの魔力の気を探る。
あの双魔の晴れ舞台という魔法の残滓が彼女たちの魔力の位置を乱し、正確な位置を掴むのが難航したが、なんとか大まかな位置を特定すると、ちょうどそこへラミエルとルミエルを連れたセラフュエルが到着した。
「どこにいるか掴めたか?」
「大まかな位置はなんとか。それ以上は無理だわ」
「よし。その位置へ向かって何か勢いのある魔法を放て。渦潮に穴が開くほどのものをな。そこへ入って二人を助け出す」
「わかった。ラミエル、ちょっとミシェルちゃんを頼むわね」
「かしこまりました」
未だに大声で泣き叫ぶミシェルをラミエルへと引き渡すと、特定した位置の真上に移動する。
そこで深呼吸をし、自分の放てる最大の風の圧力弾の魔法を構える。
「セラフュエル、頼んだわよ! 風神の怒り!」
放たれた恐ろしいほどの風圧を持つ魔法弾は巨大な渦潮に大きな穴を開け、海底の岩をも砕く。
すかさずセラフュエルがその穴に入り込み、二人の気配を探る。
ただでさえ”大罪”の魔法の残滓で魔力の気が探りづらい中、ラヴィエルの魔法でさらにそれが乱される。
さすがのセラフュエルも苦労したものの、リアニの巨大な魔力の一端を捉えることに成功する。
彼女たちの体は崩れ行く岩と共に奈落へと落ちている最中だった。
「そこか!」
岩を避けて流れ込む水よりも早く飛び、仲良く一緒に落ちていく二人を何とか抱きかかえる。
その勢いのまま穴の中でぐるりと回って上へと方向を転換し、この穴からの脱出を試みる。
しかし穴の崩壊が進み、さらに多くの岩と水が一気になだれ込んでくる。
ちょっとでも岩を避けるのに失敗すれば一巻の終わりという中、セラフュエルは一つ一つの岩をスピードを緩めることなく丁寧に避けていく。
その状況下でさらに二人に岩の破片が当たらないように注意を払っていた。
まさに神業という救出劇を繰り広げ、見事に二人を助け出すことに成功した。
セラフュエルが抱える二人の姿に一同はひとまずほっとするも、その容体はとても安心できるものではなかった。
皮膚はかの魔法で焼けただれ、闇の柱の衝撃か落下の衝撃かで骨も何本も折れていた。
すぐにラヴィエルが治癒の魔法をかけるも、完全に治し切ることはできなかった。
二人の体を浮かし、緊急でラミエルとルミエルが二人の手当てに当たる。
折れて露出した骨を元に戻し、傷口と共に治癒魔法で回復させていく。
ただれた皮膚は切除して被覆材で応急処置をしていく。
ある程度の処置が終わったら、極力患部に触れないようにするためラミエルとルミエルがそれぞれ一人ずつ浮かして天界まで運んだ。
その後高度な治癒魔法が使える天界の医療のスペシャリストである智天使リリラエルに処置をしてもらう。
リリラエルは二人の傷を跡が残らないように丁寧に処置していき、およそ三時間で処置が終了した。
二人はそのままラヴィエルの希望の下彼女の部屋へと運ばれた。
心配そうにずっと眉をひそめるミシェルに無事に処置が終わったことを告げると、二人の様子を見るためにすぐに駆けだしていった。
彼女は静かに眠る二人の姿に安心して力が抜けてしまい、その場に倒れ込んでしまった。
ラヴィエルはそんな彼女を自らのベッドに横たわらせ、そのまま部屋を後にした。
彼女が向かった先は女神ハイリヒの下だった。
彼女に謁見するなりラヴィエルは自らの傲慢と力不足を詫びた。
「申し訳ありません、ハイリヒ様。無傷どころか重症で二人を連れ帰ることになってしまい、さらにルーメンとそこに住まう民たちも守ることができませんでした。非はすべて私にあります。何なりと処罰をお申し付けください」
「セラフュエルから大まかな状況は聞いています。ラヴィエル、あなたに非があるわけではありません。これは功を焦りすぎた私の責任です。だから面を上げなさい」
「そ、そんなことは……! 全ては私の力不足と誤った判断による結果でございます。決してハイリヒ様には非はございません」
「いいのです。ラヴィエル、どうか自分を責めないで。ひとまずあなたたちが戻ってこられたことを喜ぶべきでしょう。本当によく頑張りましたね」
ハイリヒの慰めにラヴィエルの心はきゅっと苦しくなる。
優しい言葉をかけられればかけられるほど、それに縋り許されようとする自分と、絶対に自分は許されてはならないという罪の意識が葛藤を起こす。
全てがラヴィエルの中でぐちゃぐちゃになり、気づけば彼女は涙を流し始めていた。
頬を伝る涙に驚きを感じ、それを腕で拭う。
しかしそれは拭っても拭っても収まることは無く、女神の神殿内に熾天使の泣き声が響き渡った。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
大敗を喫した彼女たちはこれからどのような道を歩んでいくのでしょうか。
それにしてもセラフュエル凄いな……。
頼りになるお爺さん感が半端ない。
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拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。




