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正体

 しばらくしてリアニが落ち着いたころ、話し合いを再開する。

 問題の発見できなかった”ヌシ”についての情報を村長に話してもらった。

 村長曰くその”ヌシ”は巨大な木のような大きさで正面は大きな頭部と小さな手足が見えるのみ。

 横から見ると頭部から体がそのままの大きさでつながっており、首と思わしき部分はなく、大きな楕円に手足をくっつけたような見た目をしている。

 頭部にいくつもついている目玉は、それに捉えられた獲物を視界から決して逃さない。

 その体重と大きく裂けた口で獲物を攻撃し、表面はメルティスの矢が通らないほど固く、剣や弓で倒すことは絶対にできないとのことだった。


 そんな化け物の影すら確認できなかったこの事態は、明らかに異常であると考えられる。

 「もしかして誰かに倒されちゃったとか?」

 「可能性としては無いとは言い切れないと思います。スワヴォータの皆さんもとても強いですけど、私はその強さすら超える化け物を目にしてますから……」

 「リアニちゃん、それって……」

 リアニがその名を口にする前に、ラヴィエルが口を開く。

 「”大罪の悪魔”ねぇ……。ありえない話じゃないけど……」

 「たいざいのあくま……?」

 ジクリアをはじめとしたスワヴォータの者たちは一様に首をかしげる。


 彼らは未だに”悪魔”やその頂点に君臨する”魔神”や”大罪の悪魔”について何の知識もない。

 そのためシエルからの受け売りだがリアニが大雑把に説明する。

 「てんしさまのてき……つよい?」

 「私たちじゃ勝てないぐらいには。ラヴィエル様なら勝てるはずだけど……」

 「私も絶対じゃないよ。前回は相性が良かっただけだと思うし……」

 「もしそうなら打てる手も限られてくる。リアニ、ミシェル、偵察の最中に悪魔の群れは見た?」

 すっかり体調の治ったカリスは真剣な面持ちで二人に問いかける。

 二人は同時に顔を横に振る。

 彼女たちは偵察の最中、悪魔の影すらも見かけなかったのだ。

 「そうなの? じゃあ”大罪の悪魔が”いる可能性は低いのか……」

 カリスの呟きをラヴィエルが即座に否定する。

 「いやむしろその逆。あいつらって自由人な上に群れるのを嫌う傾向にあるの。多分前回のセラフュエルが特殊なんだと思うんだけど、基本”大罪の悪魔”は配下をニ、三人だけ連れることしかないの。だからこの大陸に”大罪の悪魔”がいる可能性は非常に高い」

 「そんな……じゃあエンデの殲滅はどうしましょう? ハイリヒ様曰くあまり時間もないようですが……」

 ラヴィエルは想定以上に早い彼らの侵略に小さく舌打ちをすると、何やらごにょごにょと話し合っていたスワヴォータの村人たちが突然、全員立ち上がった。

 そうしてジクリアが彼らの総意を四人へ伝える。

 「わたしたち、エンデ、たおす。リアニちゃんたち、きにせず、あくま、たおして」

 スワヴォータの皆は一斉に雄たけびを上げ、腕を高く空に向けて突き出す。

 リアニは彼らを止めようとしたが、ラヴィエルに手で制されてしまう。

 「ありがとう。勇敢なるスワヴォータの民たちよ。その行いは女神ハイリヒの祝福をもたらす善良なものである。諸君の行いに報いるためにも、必ずしも強大な悪魔は我ら四人が討ち取ろう! 諸君に武運を祈る!」

 緩やかな雰囲気から一転した彼女の声は、スワヴォータの民をさらにやる気に満ち溢れさせる。

 そしてラヴィエルは胸の前に両手を置き、それを優しく前へと突き出す。

 「熾天使の暁光(ルクスエンジェラス)

 彼女から放たれたキラキラとしたオーラがスワヴォータの民に降りかかる。

 そのオーラは彼らへ特別な魔力と自信を与え、彼らはさらに猛き咆哮を上げると、そのままエンデを殲滅する準備へと取り掛かり始めた。


 その様子について行けずにただ茫然と見つめていたリアニ、カリス、ミシェルの三人はラヴィエルが何をしたのかをカリスが問いかける。

 「ラヴィエル様、今の魔法は……?」

 「ん? あぁ、”熾天使の暁光(ルクスエンジェラス)”って言う魔法は私たち熾天使が使える魔法でね、この魔法をかけられた人に熾天使の特別な魔力を貸し与え、さらにその人たちの精神を高ぶらせて鼓舞する効果があるの」

 「特別な魔力……? 普通の魔力とは違うんですか?」

 「そうだよ。私が今貸し与えた――」


 ラヴィエルが説明をしようと思ったその時、外が一気に騒がしくなった。

 悲鳴にあえぐような騒がしさではなく、歓喜の声を上げているような喧しさが建物の外から聞こえて来る。

 何事かと一同は外へ出て確認すると、そこには本来いるはずのない者の姿がそこにあった。

 「なんで……ここにシリカさんが……?」

 「ねえリアニちゃん、もしかしてシリカさんって……」

 その時シリカがリアニたちに気づくと、スワヴォータの者たちを掻き分け近づいてきた。

 そうして一同の前に立った彼女は、自分の顔を覆う布をゆっくりと脱いでいく。

 露わになった顔はリアニとカリスがよく知る”彼女”の顔だった。

 「あ……あぁ……おかあさん……おかあさん!」

 リアニは彼女に抱きつこうとするも、後ろから襟ををグイッと掴まれる。

 一瞬閉まる首に刹那の苦しみを覚えると、後ろを振り返る。

 そこにはもの凄い形相をしたラヴィエルがリアニの襟をつかんでおり、カリスとミシェルをかばうように彼女たちの前に手を出して、二人が目の前の”彼女”に近づかないように制していた。

 「よくもまあのうのうと姿を見せられたものだね」

 「うちの子を離しなさい! 明かしたくても明かせなかった本当の私でようやく二人に接することができるのに!」

 「ら、ラヴィエル様……?」

 「じゃあ本当のあなたを見せてよ。メルティスさん……いや、”色欲”のシェムヴィアル!」

 ラヴィエルはそう言うと同時に一同と共に空へと飛びあがり、スワヴォータの民を守るように魔力壁を展開した後、メルティスへ向けて光の玉をぶつける。

 大きな爆発に周りは騒然とし、ラヴィエルという熾天使の力の一端を目にする。


 煙が晴れる中、その者はゆっくりと姿を現した。

 「ウフフ……さすがは熾天使ってとこかしら。自信はあったんだけどなぁ……この変装」

 メルティスだった者は、背中から六枚の悪魔の翼を大きく広げて、煙を振り払う。

 そこに立っていたのはメルティスではなく”大罪の悪魔”その者だった。

 平均的な女性の身長、まるで血のような深い赤色の髪の毛はまるで狼の毛先のように見える型に整えられており、彼女の瞳は毒々しい紫色をしている。

 豊満な体をくっきりと見せつけるような小さなドレスに身を包み、下半身はこの寒い地域に似合わずその大半を露出させており、素敵なハイヒールでばっちりとおしゃれをキメ込んでいる。


 喜びにあったリアニは一気に怒りの感情を高ぶらせ、カリスとミシェルはその変化に気づき、リアニの手をそっと握ってやる。

 「ウフフ……どうだったリアニちゃん? お母さんそっくりだったでしょ? 哀れな子よねぇ。彼女は今頃骨となってあの土地に埋まっているって言うのに――」

 「黙れ! お前は……お前だけは許さない!」

 「あらあら、そう怒らないの。ちょ~っとからかっただけじゃない」

 そこでラヴィエルがさらにシェムヴィアルへむけて魔法を放つ。

 その魔法は彼女の腕に簡単に振り払われると、一気にその距離を詰めラヴィエルの耳元でこう囁いた。

 「……もうちょっとお行儀よく待ってましょうね」

 次の瞬間彼女を中心とした巨大な爆発が一同を襲った。

 魔力壁でその影響を抑えながらももろに喰らった一同は、それぞれ体の一部に傷を負う。

 「さあ、行儀の悪い天使様はもう待てないみたいだから始めましょうか。っとその前に……」

 彼女は村の裏手にある山脈に向かって叫ぶ。

 「ディアゴールー!!」

 すると山の頂上から大きな影が姿を現し、麓にある村に向けて一直線にゴロゴロと転がり込んでくる。

 その後ろにはリアニたちが見かけたエンデ達の群れが付いてきていた。

 スワヴォータの民たちは状況に混乱しながらも、目の前に迫る災禍を防ぐため、巨大な魔方陣を展開する。

 その魔法陣からは禍々しい腕が何本も出てきては転がり降りて来る”それ”を抑え付けようとする。

 しかしその勢いはとどまらず、やがて村にある建物を吹き飛ばしてしまった。


 一方空中ではすでにラヴィエル達対シェムヴィアルの戦いが幕を開けていた――。

ここまでお読みいただきありがとうございました。


区切りが悪くて申し訳ない。戦い前の導入が思ったよりも長くなってしまって、本戦にまで届かなかったので、次回からわちゃわちゃ戦い始めるお話になるので、どうか今しばらくお待ちくださいませ。


ブックマークのご登録、ご感想等いただけるとモチベーションにつながり、創作活動はかどりますので、ぜひぜひお願いいたします!!

また誤字や脱字等ございましたご報告のほどお願いいたします。


拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。

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