偵察
ひとしきり騒いだ次の日。
カリスとラヴィエルは頭を抑え、真っ青な顔をしながらスワヴォータの村長が用意してくれた寝室から出て来る。
先に起きて作戦の大まかな流れを組むために、ルーメンの地図を用意して話し合っていたリアニとミシェル、それにジクリアは彼女たちのその様子を見て深いため息をついた。
「どうせそんなことになると思った。どうするのお姉ちゃん、それにラヴィエル様?」
ジト目で二人を見つめながらそう問い詰めるリアニに、二人は頭が上がらないと言った様子であった。
本来ならばすぐにでも行動に移すべきなのだが、彼女たちの体調を鑑みて、今日は詳細づめを行い、決行は明日という風に決まった。
その作戦を立てるにも、まずはルーメンにどんな終わりの使徒がいるのか、またその数はどれほどなのかを調べる必要があり、また殲滅するのに最適な地を選ぶため、一度リアニとミシェルで偵察に出ることになった。
「リアニちゃん、それにミシェルちゃんも、気を付けてね。決してエンデとは交戦しないように、見つかったら全力で逃げるんだよ」
「分かってますよ、ラヴィエル様。それより早くその体調を直してくださいね」
「お姉ちゃんもだよ! お水飲んで体に残ったお酒をちゃんと抜くんだよ!」
「わ、わかってるって……大声やめて……響くから……」
「自業自得だよ……まったく……」
そうしてリアニとミシェルは一緒の法器に跨ってルーメンの寒空へと飛んで行った。
残された二人はジクリアに水をもらい寝室へ入ってゆっくり休むことになった。
深々とした雪が降るルーメンは、視界が悪く先が見通しづらいため、二人は普段の何倍も警戒しながら大陸を回るように飛んでいた。
途中で廃墟となった村や使われなくなった小屋など、様々な人工物があるものの、生きている人の姿は全くなかった。
どうやらルーメンの大陸にはスワヴォータ以外の人間は住んでいない、もしくはすでにエンデの犠牲となってしまったようであった。
そもそも環境自体があまり人が住み着くのに向いていなかったため、元々の住人が少なかったのではないかと思われる。
一時拠点にしていた父親の秘密基地や、スワヴォータの村以外はほとんど寄り付くことがなかったため、二人はこの実態を今日初めて知ったのである。
「人っ子一人いないね……」
「うん……それに思った以上にエンデの数も少ない……」
「山に動物みたいなエンデが群れを成してるのを数か所で見たぐらいだね。エンデも寒いのは嫌なのかな?」
「あのどこにでも湧いて住み着く化け物に限ってそんなことは無いと思うけど……」
そこで目下の地面からちょうどエンデが湧き出てきた。
地面から這い上がって出てきたその姿はまるで可愛い雪ウサギのようだが、爪と前歯が異様な発達をしており、化けネズミのような醜悪さがあった。
「噂をすればなんとやらってね。ルーメンのエンデは動物型が多いみたいだね」
「純粋に見たこともない異形の化け物はいないって感じかなぁ……空を飛ぶエンデも見かけてないしね」
「う~ん……なんか変な感じがする……。もう少し見て回って見よう、リアニちゃん」
「そうだね。確かに、これは逆に異常なのかもしれない……」
そうして二人は何度もルーメンの大陸を周回するように見て回り、様々な場所でエンデをおびき寄せてみたりもしたが、特別変わったエンデの姿も、苦戦するほどの量のエンデもいなかった。
なにかがおかしいと感じた二人はひとまずスワヴォータの村へと戻って、ラヴィエルたちに相談することにした。
二人は村長に声をかけ、村で一番大きな家に人を集めてもらい、今回の殲滅作戦に参加するスワヴォータの戦士たちも交えて、偵察で見て回ってきて分かったことをみんなに共有する。
またオブスカーラでの作戦の様子を伝え、状況が異常なほど乖離していることについて、リアニはその異常性をエンデはどこにでも湧くという情報も交えて説いた。
「――という感じで、見て回った限りだとオブスカーラの時ほど大規模な作戦を組む必要はなさそうですけど、やっぱりこの異様に少ないっていう状況は気になります」
「確かにリアニとミシェルの聞いてる感じだと、どこか嫌な予感は拭えない感じがするね」
「作戦に率いることができる人数はかなり限られてるから、ありがたいっちゃありがたいんだけど……。この違和感を残したまま行動に移すのは得策じゃないね。それこそシエルたちの二の舞になりかねないかもしれない」
リアニとミシェルの意見にカリスとラヴィエルも賛同する。
そんな中不意にジクリアが口を開いた。
「リアニちゃん、ヌシ、みなかった?」
「え~っと……どんな奴ですか?」
ジクリアはリアニに紙とペンを要求し、渡された紙に”ヌシ”の姿を描いていく。
途中、村民が口を挟みながら描かれたそれはルーメンの大陸を回っている時には見た記憶のない終わりの使徒だった。
「エルちゃん、こんなやついたっけ?」
「ううん。こんなやつ一目見たら絶対に忘れないよ。絶対に見てないって断言できる」
「だよね……。ジクリアさん、これは見てないですけど……もしかして……?」
ジクリアはコクリと頷くと、その”ヌシ”について語り始めた。
彼女曰く、その”ヌシ”はスワヴォータの村の全員が知っている化け物の中の化け物であり、エンデの中でも特別に凶暴なのだとか。
こいつに襲われた村人は酷いけがを負って帰ってくるか、永遠に帰ることができなくなるかのどちらかで、今のところこの化け物と接敵して無事に帰ってきたのは村長と亡くなったメルティスのみだとのこと。
それを聞いたリアニとカリスは顔を見合わせる。
「ジクリアさん、それっていつのこと?」
「んん……? ちょっと前だよ。にかげつ、とか、それぐらい」
二人は酷く驚いた。
メルティスがエンデに貫かれ、その勢いでできたクレーターには確かに彼女のものと思われる血の海を二人はその目で確かめていたからだ。
死体こそ確認はできていなかったが、それでもあそこに溜まった血の量は到底生き残れるほどの量ではなかった。
そのメルティスが数か月に姿を見せ、あろうことかヌシと対面し無事に生還したという。
「あ、ありえない……! だって……! だって……! お母さんは……」
そう言って涙を流すリアニをカリスは宥めてやることができなかった、
間接的とはいえ彼女がその傷を負う原因を作ったのも彼女自身を傷つけてしまったのも自分だったからだ。
負の感情で活性化した魔力に体を乗っ取られ、大切な家族を怒りに身を任せて傷つけてしまった。
そんな自分に彼女と共に涙を流すことも、それをなだめてやる権利もなかった。
しかし村のみんなは揃って「あの人は間違いなくメルティスだった」と言う。
また「恩人様の顔は絶対に間違えたりしない」と言い、その記憶に絶対の自信を持っていた。
ここまで言われてしまったからには、彼女は本当にまだ生きていて、どこかをさまよっているのだろう。
死んだと思っていた母親が生きているという事実に再びリアニは声を涙を流し始めた。
ミシェルはリアニを「よかったね。本当に良かったね」と貰い涙を流しながら宥めてやる。
しかし彼女の心にはどこか複雑なものが引っかかっているような気持ち悪さが芽生えていた。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
ルーメン編もようやく本題に入ってきた中で、意外な事実が発覚しましたが、まあお察しの良い方は「いやあいつやろ」と思っていることでしょう。
だってあからさまですもんね。
さて次回からはエンデとの戦闘になる予定です。新たな魔法も登場させる予定ですのでお楽しみにしていただけるととても大喜びしますので、次回もよろしくお願いいたします。
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拙い物書きですがこれからもよろしくお願いいたします。




